ライバルチームの素顔

【vol.3】目指すは芸術と科学の融合。マルチタレント集団「Synergy Moon」

2016.05.18

世界10か国以上から16の民間チームが参戦する人類初の月面探査レース、「Google Lunar XPRIZE」。HAKUTOだけでなく世界中の対戦チームたちも、月への熱い思いを持ち、レースの先を見据えているヴィジョンを本気で実現するためのエネルギーに満ち溢れている。

1969年にニール・アームストロングが月の大地を踏みしめてから47年。今、人々はなぜ再び月を目指すのか。大学で機械工学を専攻する傍らHAKUTOで活動を行う村井太一が、HAKUTOのライバルであり、共に月の開拓を目指す同志でもあるGoogle Lunar XPRIZE参加チームのメンバーへインタビューを実施。月面探査で世界を変えようとしている人々の素顔に迫った。

第3回目の今回は、「Synergy Moon」のファウンダーであるケヴィン・マイリック氏にインタビューを行った。Synergy Moonは国際混合チームであり、ローバー、ランダー、衛星、ロケットまでを自分たちで手掛ける。プロジェクトを遂行するための小グループは15か国に点在している。また、宇宙開発において、科学技術だけでなく芸術や人文科学の要素も重んじており、アーティストとエンジニアのコラボレーションを進めているところもユニークだ。

ケヴィン氏自身も、アートとエンジニアリング両方のバックグラウンドを持つ人物で、劇場の技術ディレクター、照明、マルチメディア・デザイナー、そしてビデオアーティストとして働いた経験を持ち、情報技術分野でもハードとソフト・システム両方に通じる多彩な人物である。

Google Lunar XPRIZEを世界中の人々に対し宇宙開発への関心を広める場所として捉えるケヴィン氏。「芸術と科学の融合」を目指す彼らが叶えたい未来とは、どのようなものなのだろうか?

開発途上国の人々にもテクノロジーやアイデアの価値を伝えていきたい

− Synergy Moonは、何名のメンバーでプロジェクトを進めているのですか?

ケヴィン氏:私たちのチームは、15人のコアメンバーを中心に、合計で60人のメンバーおよびサポーターで成り立っています。アーティスト、科学者、技術者などさまざまな肩書を持つメンバーで構成されていて、それらを掛け持ちしている人もいますね。

− なるほど。HAKUTOのように多様なバックグラウンドを持ったメンバーで構成されているチームなんですね! 親近感を抱きます。では、Synergy Moonが月を目指す理由とは一体何なのでしょうか?

ケヴィン氏:たくさんの理由がありますが、私たち全員に共通して言えるのは「人類を宇宙や月へ連れていく」という目標を持っていることです。宇宙飛行士だけでなく、民間企業で働く普通の人々でも月に行けるようにするには、まずはロボットによる科学的調査が必要です。小説を読んだり映画を鑑賞するように、人々がもっとリアルに宇宙を感じ、経験できるような未来を目指しています。また、宇宙に限らず、開発途上国の人々に今よりももっとテクノロジーに関心を持ってもらい、それが「自国の開発・発展の助けになる」ということに気づいてもらいたいと思っています。

− 例えば、どんなテクノロジーが途上国の発展の助けになるのでしょうか?

ケヴィン氏:開発途上国が課題と捉えている「電話線を国内全域に張り巡らす」ことだって、今の時代には必要のないことです。現在は、電話線を使わなくてもワイヤレスのネットワークを介して情報を伝えることができる時代に生きているのですから。同様のことが電力供給問題にも言えます。アメリカの電力供給システムは高度に簡略化されていますし、非常に多くの国が太陽光発電などを利用し、規模の小さな発電設備を分散して配置する「分散型」の電力供給の開発に入っています。こうした電力供給は、大規模な発電施設に比べ導入が容易ですし、低コストで済みます。これらはほんの一例で、Google Lunar XPRIZEを通じてさまざまなアイデアを形にしていくことで、開発途上国の人々にその価値を伝えていきたいと強く思っています。

− 世界的なレースであるGoogle Lunar XPRIZEを、多くの人々にアイデアを伝える場として捉えていらっしゃるのですね。Google Lunar XPRIZEの開催を知ったとき、どのように感じましたか?

ケヴィン氏:私は生粋の宇宙好きで、常に宇宙に熱狂してきました。Google Lunar XPRIZEのことがアナウンスされたとき、本物の宇宙プロジェクトに関わる絶好の機会であると考えたんです。これまでさまざまな宇宙関連の活動に関わってきましたが、今回は本物の宇宙プロジェクトの実行者としてミッションに取り組める機会ですから。そして、Google Lunar XPRIZEのその先にもさらなるミッションが続いていくと考えています。

Synergy Moonのローバー、「Tesla」

地球にあるさまざまな産業を宇宙へ? Synergy Moonが掲げる到達目標とは

− 「さらなるミッション」という言葉がありましたが、Synergy MoonがGoogle Lunar XPRIZE以降を見据えて持っているヴィジョンについて教えてください。

ケヴィン氏:Google Lunar XPRIZEにおける最終的な到達目標は、「宇宙開発への関心を広めること」です。人々が毎日宇宙に興味を持ち、宇宙に関わり、そして地球で使われている技術やアイデアを宇宙へ向けること。地球にあるさまざまな産業を地球軌道上、そして月でも活用していくことに、最も価値があると信じています。開発途上国は、アメリカなどの先進国が歩んできた轍をたどる必要はないですし、彼らこそ宇宙へと飛び立ち、大きく発展する必要がある。彼らが宇宙での発展に向けて取り組むときに、過去のステップに沿って一段階ずつ上っていく必要はない、ということに気づいてほしいと私たちは思っています。一方で先進国も、地球をより良い星にするために一歩ずつ取り組んでいくことが必要だと思います。

− Synergy Moonは、参加チームの中で唯一ロケットの開発も行っていますが、それには何か理由があるのでしょうか?

Synergy Moonのロケット、「NEPTUNE 1000」

ケヴィン氏:私たちのメンバーの一人は、Synergy Moonにロケットやランダーを提供するために共同開発を行っているInterorbital Systems社で働いています。この会社では人々を宇宙へと輸送するためにさまざまな取り組みを行っていて、例えば、成層圏からのフリージャンプ事業のために専用パラシュートの開発なども行っているんです。こういった取り組みに加えて、超小型衛星の開発を行っているということもあり、超小型衛星によるサンプルリターンミッション(地球以外の天体から試料を採取し、持ち帰ること)を行う許可をGoogle Lunar XPRIZEから得ることができました。共同開発を行うことで、Interorbital Systems社にとって一つの目標だった「月へ行く」というミッションを行うことができますし、私たちにとってはGoogle Lunar XPRIZEの先に繋がる月面開発のためにロケットを持つという大きなチャンスを得ることができました。

Synergy Moonのロケット「NEPTUNE 1000」メインエンジンの地上燃焼試験

− HAKUTOについてはどのように思っていますか? 率直な意見を聞かせてください。

ケヴィン氏:すべてのチームに素晴らしい点がありますが、HAKUTOについては彼らが注力しているローバー開発が特に素晴らしい仕事だと思いますね。単に月面を走行し映像を撮影するだけでなく、将来的には月の縦孔の科学的な探査も行おうとしており、そのために複数の超小型ローバーを開発しています。これは、Google Lunar XPRIZEが以前から成し遂げようとしているミッションの一歩先を行く試みですし、彼らが月面レースのその先に意図していることでもあります。HAKUTOはその意図を自らミッションの一部として具現化しようとしているチームだと思っているので、心から尊敬しています。

− ありがとうございます。HAKUTOにメッセージがあれば、お願いします。

ケヴィン氏:今取り組んでいることに、全力で取り組み続けてください。今回HAKUTOが打ち上げパートナー契約をAstroboticと結んだことは、自分たちの得意分野に集中し、ミッションを達成するための素晴らしいアイデアだと思います。HAKUTOが目指すべき方向へ歩みを止めず進み続けることを願っています。オランダのWhite Label SpaceからHAKUTOがスピンアウトしたとき、HAKUTOがWhite Label Spaceが提供しようとしていたランダーを自分たちの手で再び手に入れることを願っていましたから。(※1)

※1:White Label Spaceはオランダチームがランダーを開発し、日本チームがローバー開発を担当するはずだったが、資金難によりオランダチームが撤退。その後も日本チームはWhite Label Space Japanとしてローバーの開発を継続、後にHAKUTOと名称を改め現在に至る。 関連記事はこちら。

− 最後に、日本のみなさんへのメッセージをお願いします。

ケヴィン氏:HAKUTOについてもっと知ってください。そして、HAKUTOの活動をサポートしてください。あなたがGoogle Lunar XPRIZEに協力できることが何か一つでもあれば、それを行動に移してください。なぜなら、Google Lunar XPRIZEは未来への扉を開く第一歩なのですから。

HAKUTO袴田代表と、Synergy Moonケヴィン・マイリック氏

いかがだっただろうか。皆さまにとって、宇宙開発が少しずつ現実味を帯びて来たのではないだろうか。私はSynergy Moonが「Google Lunar XPRIZEを通じて人々をインスパイアしたい」という熱意をひときわ強く持っていると感じた。私のようにアポロ計画をリアルタイムで経験していない世代にとって、このレースはどんな意味を持つのだろう。中間賞受賞チーム以外のチームからも、目が離せない。私たちの固定観念を覆すアイデアの実現に期待したい。

PROFILE

Team HAKUTO 村井太一 / TAICHI MURAI

東京理科大学4年。大学で機械工学を専攻する傍ら、2015年春よりHAKUTOプロボノメンバーとして活動開始。2016年春よりispaceのインターンとしてもHAKUTOの活動をサポート中。

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