竹内薫(サイエンス作家)

いまの夢は、15年後の現実になる。サイエンス作家・竹内薫が見たHAKUTOプロジェクト(後編)

2016.06.22

サイエンス作家 竹内薫

1960年東京生まれ。東京大学教養学部教養学科(専攻、科学史・科学哲学)、理学部物理学科卒業。
マギル大学大学院博士課程修了(専攻、高エネルギー物理学理論)。理学博士。科学評論、エッセイ、書評、講演などを精力的にこなす。
スポーツインストラクターの妻と猫4匹とともに横浜に在住。実家にも2匹の猫がいる。

サイエンス作家の竹内薫さんに、「au × HAKUTO MOON CHALLENGE」にまつわるお話を聞くインタビュー。「前編」では、アポロ11号の月面着陸に沸くアメリカを体験した幼少期の思い出から、宇宙エレベーター構想などの最新事情まで、さまざまなトピックについて語っていただいた。「後編」では、人類初の月面探査レースであるGoogle Lunar XPRIZEをはじめ、人工知能(AI)の進化によって変わりゆく未来の話、さらには、そういった世界において「夢」や「挑戦」が持つ重要性など、科学技術の話のみならず、幅広いトピックについて語っていただきました。「誰もやらないことをやる勇気」......竹内さんがHAKUTOチームに送る応援メッセージともども、知的好奇心に満ちたお話をご堪能ください。

民間の宇宙開発をお祭りみたいにして、みんなで盛り上がる。そうすれば頑張れるし、高いハードルもクリアできる。

− ところで竹内さんは、この「au × HAKUTO MOON CHALLENGE」というプロジェクトをご存じでしたか?

竹内:はい、知ってました。HAKUTOっていうネーミングが印象的ですよね。兎をイメージしたロゴマークもすごくセンスがいいなって思ってました。中間評価でも賞を獲って、優勝候補として期待されているなんてすごいですよね。民間の宇宙開発において、日本が世界のトップレベルにあるということですから、同じ日本人として非常にうれしいです。

− こういった宇宙開発を賞レースという形で開催するのは、わりと一般的なことなのでしょうか?

竹内:アメリカではわりとよくあるというか、そこがあの国の面白いところです。宇宙開発に限らず、ロボットとかもそうですけど、賞レースという形で世界中から参加者を募って競争させるので、すごく盛り上がるんですよ。もちろん、その中で良い参加者が出てきたら、将来的に手を組むことも考えている。そうやってひとつのお祭りみたいな形にして、しかもそこにすごく高いハードルを課して、みんなで頑張ってクリアしていこうっていう。その過程で科学技術が一気に伸びることも、やっぱりあるんじゃないかと思うんですよ。

− ちなみに、竹内さんのまわりにいる科学系の人たちは、HAKUTOの挑戦を、どのように見ているのでしょう?

竹内:「民間でどこまで実現できるのか?」「本当に月に行って、走ることができるのか?」は、みんな興味津々で見守っていると思いますよ。たとえレースが終わっても、挑戦したことによって、技術的な蓄積ができて人材も育つので、次はその人たちが新しい目標を立てればいいわけです。だから、その最初の一歩を実際に踏み出したことが、とても大きいと思いますね。たとえ結果がどうあろうとも、まず最初に手を挙げてやってみた。それは本当に難しいことですし、勇気があることだと思います。

− そもそも実現可能であるかどうかはもちろん、予算がいくらかかるのかわからないですからね。

竹内:そう、宇宙開発はかかってくるお金の桁も、だいぶ上になるので(笑)。とはいえ、F1レースに参戦するにしたって、ものすごくお金がかかるわけじゃないですか。でも、実際に参戦してみたら……最初は勝てないんだけど、やっているうちにいろんな課題がわかってきて、技術がどんどん培われていく。ゆくゆくは、その技術が自社の車に活かされたりするわけです。そうやって、最終的にみんなが使える技術になるみたいに、宇宙開発にもそういう面があると思うんですよね。

何もやらないのが一番安全。でも、やらなければ何も始まらない。だからHAKUTOは、すごく勇気があるプロジェクトなんです。

− それにしても、そういったチャレンジをエンターテイメントのように見せてしまうのは、非常に面白いですよね。

竹内:やっぱり楽しくないとダメなんですよ。みんな苦しかったけど頑張ったではダメなんです。「苦しみ」はあるけど、楽しくやろう、お祭りのような感じでやろうっていうノリが、まず大切なんですよね。

− たしかにそうかもしれません。

竹内:こういう大きなプロジェクトって、楽しくないと前に進まないんですよ。ある種の「お祭り」だからいいんです。真面目にロジックを組み立てるだけだと、たくさんのリスクが見えてきて、やらないほうがいいって話になっちゃう(笑)。だからまず、夢を語って、やってみる。失敗して、次の課題に初めて気づく。そうすると、どんどん現実になってくる。「始める」ことが大切で、そのために「楽しい」ってことが極めて重要なんですね。

− なるほど(笑)。

竹内:ぼくもいま、MIRAI小学校というフリースクールをやっているんですけど、子どもたちが楽しみにしている遠足だって、怪我や迷子のリスクをゼロにしようと思ったら、何もやらないのが一番安全なんです(笑)。でも、やらなければ何も始まらないじゃないですか。だから、HAKUTOのプロジェクトは、そういう意味でも、すごく勇気があるプロジェクトだと思うんですよね。

自分の時間を割いてまで手伝いたいというのは、それがエンターテイメントで楽しいから。

− HAKUTOチームの特色の一つとして、弁護士や広報など、別の分野で培った経験やスキルを活かす「プロボノ」というボランティアの存在があります。それについてはどう思いますか?

竹内:そうやって文系理系関係なく、いろんなところから人が集まってくるということは、そこに何か「つなぐもの」があるわけで、それがHAKUTOの場合は、たぶん「夢」なんですよね。宇宙に対する「夢」がまずあって、それがみんなをつないでいる。これってプロジェクトの理想形だと思うんですよ。その対極にあるのは、ドロドロとした利権やしがらみで集まっている人たちです(笑)。儲からなくてもいいというか、自分の時間を割いてまで手伝いたいというのは、それがエンターテイメントで楽しいからですよ。楽しくなかったら、誰もボランティアに来ないと思うんですよね。

− 何かに挑戦することが、純粋に楽しいというか。

竹内:そう、お金じゃない何かって、きっとあると思うんです。もちろんそのための資金集めは、非常に大事なことですけど、それとは別に、何か大きな夢に参加するというのは、ものすごく気持ちのいいことだと思うんですよね。

− 人間って、お金のためとかではなく、夢のためとかそういう回路がないと、なかなか立ち行かないところがあると思います。

竹内:そうですね。「いままでにないものを作る」のが、すごく重要だと思うんです。これからは人工知能が人の仕事を代替していくっていうじゃないですか。前例がたくさんあるものは機械学習できるので、人工知能がどんどん効率よく仕事してくれる。だけど人工知能がHAKUTOのプロジェクトに挑戦できるかっていうと、たぶんできないんですよ。それはいままで誰もやったことがないものだから。前例がないものは、人工知能は学習できないんです。だから、これが人間がやるべきクリエイティブな仕事なんですよね。何もない状況から作り上げていくのは、人間にしかできないことなので。

− 本日は、いろいろと興味深い話をありがとうございました。では最後、HAKUTOチームに向けて何か応援メッセージをお願いします。

竹内:一言でいうと、「いまの夢は、15年後の現実なんです」ということですね。そのために彼らは夢を追っていると思うので。で、その夢が現実になったとき、次の世代がまた別の夢を追い始めるわけです。そうやって人間の創造力がある限りは、たぶん人類っていうのは、どんどん発展していくんじゃないかと思います。

TEXT & INTERVIEW

麦倉正樹 / MASAKI MUGIKURA

ライター / インタビュアー / 編集者。映画雑誌、音楽雑誌の編集を経てフリーランス。映画や音楽にまつわる人物取材やコラムのほか、人文科学系の論考や大学教授の取材など、さまざまなジャンルの記事を雑誌やWEBで執筆。

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