ライバルチームの素顔

【vol.5】アウディと組んだドイツの強豪「Part-Time Scientists」

2016.07.20

世界10か国以上から16の民間チームが参戦する人類初の月面探査レース、「Google Lunar XPRIZE」。HAKUTOだけでなく世界中の対戦チームたちも、月への熱い思いを持ち、ヴィジョンを本気で実現するためのエネルギーに満ち溢れている。

1969年にニール・アームストロングが月の大地を踏みしめてから47年。いま、人々はなぜ再び月を目指すのか。大学で機械工学を専攻する傍らHAKUTOで活動を行う村井太一が、HAKUTOのライバルであり、共に月の開拓を目指す同志でもあるGoogle Lunar XPRIZE参加チームのメンバーへインタビューを実施。月面探査で世界を変えようとしている人々の素顔に迫った。

人類初の月面探査レースにおいて、月面探査機の着陸・機動性・撮影の3要素に対して優れた実験結果を出したチームに贈られる『Google Lunar XPRIZE中間賞』。受賞した5チームの1つ、「Part-Time Scientists」は機動性に関するモビリティ部門と撮影に関するイメージング部門の二部門を受賞したHAKUTOの強力なライバルである。注目したいのが、メインスポンサーのアウディと共同開発した「アウディ・ルナ・クワトロ」ローバー。かつて4WD(四輪駆動)システムに革命を起こし、その後の4WD高級スポーツカーの先駆けとなったアウディクワトロの名を冠する月面探査機だ。その他にも多くのテック系企業との技術協力関係を築き、開発を推し進めるPart-Time Scientistsのコアメンバーの一人、カーストン・ベッカー氏へのインタビューを通して、チームの姿に迫った。

ドイツの有力チーム、Part-Time Scientists

人類が「月」から学ぶべきことは、まだまだ沢山ある

− まず初めに、Part-Time Scientistsが月を目指す原動力は何でしょうか?

ベッカー氏:私たちは、科学の発展のために月を調査すべきだと考えています。月から学ぶべきものはまだまだ沢山あります。もしGoogle Lunar XPRIZEプロジェクトを成功させることができたなら、世界の宇宙機関による月の調査を手助けし、そこからさらに多くのことを学びたいと思っています。

− チームは何人で活動しているのでしょうか。また、メンバーはどのような人たちが参加していますか?

ベッカー氏:ドイツにいる主要メンバーは約35名で構成されており、そのうち13名がフルタイムになります。国外も含めたチーム全体では70名を超えるメンバーが活動しています。大半はエンジニアや科学者ですが、全員が「プライベートで宇宙の仕事に関わること」に情熱を注いでいます。

− その心意気が「Part-Time Scientists (パートタイムの科学者たち)」というチーム名に表れているわけですね。他のGoogle Lunar XPRIZE参加チームに対する優位性は何だとお考えですか?

ベッカー氏:Part-Time Scientistsの一番の強みは、オープンであることです。誰にでも門戸を開いていますし、集まる人のすべての意見に耳を傾けています。私たちは賞金に関心があるわけでなく、科学、そして宇宙に関心があるのです。

− オープンであること、そして、コラボレーションしていくことが、これからの宇宙開発の鍵ですね。われわれHAKUTOも同じ気持ちです。では、チームの近況について教えてください。

ベッカー氏:私たちの最大のサポーターであり、オフィシャルスポンサーのアウディのエンジニアとともに開発した最新のローバー「アウディ・ルナ・クワトロ」を2016年の初めに発表しました。そのほかにも複数のプロジェクトに取り組んでいますが、近いうちにまたエキサイティングな情報をお届けできると思います。

− いま、チームでホットな話題はなんでしょう?

ベッカー氏:みんな最新のガジェットの話題が好きで盛り上がっていますが、特に3Dプリンターで作られた製品は、チームの開発に応用できることもあるので、常々注目しています。

レースに優勝したら、有人月面基地Moon Villageの建設に協力したい

アウディ・ルナ・クワトロ

− ローバーのデザインコンセプトを教えてください。

ベッカー氏:アウディ・ルナ・クワトロは四輪で、それぞれのホイールを独立して動作させることによって、過酷な地形での駆動を可能にしています。最終目標は岩を乗り越えずに避けて通ること。さらに、搭載しているソーラーパネルは傾斜が調整できるため、いつでも太陽にパネルを向けることができます。また、その上部には高解像カメラユニットが3台あり、操舵に使われる広角の写真・動画撮影用のカメラが2台、月面の地表のサンプル分析や高解像度パノラマ撮影用の望遠カメラが1台搭載されています。

− Google Lunar XPRIZEの先に描いているヴィジョンがあれば教えてください。

ベッカー氏:もし、私たちがGoogle Lunar XPRIZEで優勝できたら、欧州宇宙機関が計画する有人月面基地、Moon Villageの建設に協力したいと考えています。私たちは、人類がISS(国際宇宙ステーション)の後継となる設備を持つことがもっとも重要だと考えているので、Moon Villageはその観点から見て非常に素晴らしいものになるはずです。

驚くほどHAKUTOと似た兄弟チーム?

− HAKUTOについて、率直な意見を聞かせてください。

ベッカー氏:私たちと似たような方針をもっているチームであるということに好感を持っています。HAKUTOのローバーは素晴らしい特徴を小型のボディーに詰め込んだ、まさに日本チームに期待していたデザインそのものです。また、HAKUTOには多くのプロボノメンバー(各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして貢献するボランティアのメンバー)がいることもそのひとつで、私たちと非常に似ています。

− ライバルとして、HAKUTOをどう見ていますか?

ベッカー氏:Google Lunar XPRIZEは民間宇宙開発に変革を起こすための開発競争です。私たちとHAKUTOの関心は一致していて、月面探査という目標に対して、チームメンバーの構成や企業とのスポンサーシップ・技術協力、ローバーの小型化・軽量化など、驚くほど同じアプローチで到達しようとしています。私たちは、Google Lunar XPRIZEを競いながらも、素晴らしいパートナーシップをHAKUTOと築いていけると確信しています。

− 日本のファンへのメッセージ、そしてHAKUTOへのメッセージをお願いします。

ベッカー氏:Google Lunar XPRIZEは勝者を選ぶためだけのレースではありません。レースに参加するすべてのチームが、それぞれ新しいテクノロジー、新しいビジネスモデルを創造しています。つまり、宇宙開発を加速させる思想に基づくレースであるといった観点から見れば、このレースはその目的をすでに達成していると言えるでしょう。レースの優勝賞金は単なるおまけにすぎません。また、社交辞令は抜きで、HAKUTOはPart-Time Scientistsの次に好きなチームです。

Part-Time Scientistsメンバーたち

チーム構成や開発へのアプローチ、HAKUTOとの共通点も多いPart-Time Scientists。プロフェッショナルな科学者や技術者たちがあえて自分たちのことを「パートタイム」と呼ぶ、このユーモアが印象的だ。また第1回にインタビューしたAstrobotic同様、有人月面基地Moon Village計画に高い関心と意欲を持っていることは興味深い。Google Lunar XPRIZEの参加チームと話すたびに、宇宙開発というものが現実味を帯びて伝わり、SFと現実の境目が曖昧になっていくことを感じている。HAKUTOメンバーとしてあえて伝えたいのは、「月を目指しているのはHAKUTOだけではない」ということ。Google Lunar XPRIZEは、地球を巻き込んだムーブメントなのだ。まだまだ紹介しきれていないチームがある。ぜひ、次回にもご期待いただきたい。

PROFILE

Team HAKUTO 村井太一 / TAICHI MURAI

東京理科大学4年。大学で機械工学を専攻する傍ら、2015年春よりHAKUTOプロボノメンバーとして活動開始。2016年春よりispaceのインターンとしてもHAKUTOの活動をサポート中。

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