ライバルチームの素顔

【vol.6】自国の宇宙開発を再び盛り上げたい。ハンガリー発「Team Puli」

2016.08.10

世界10か国以上から16の民間チームが参戦する人類初の月面探査レース、「Google Lunar XPRIZE」。HAKUTOだけでなく世界中の対戦チームたちも、月への熱い思いを持ち、レースだけでなく、その先にあるヴィジョンを実現するためのエネルギーに満ち溢れている。

1969年にニール・アームストロングが月の大地を踏みしめてから47年。いま、人々はなぜふたたび月を目指すのか。大学で機械工学を専攻する傍らHAKUTOで活動を行う村井太一が、HAKUTOのライバルであり、共に月の開拓を目指す同志でもあるGoogle Lunar XPRIZE参加チームのメンバーへインタビューを実施。月面探査で世界を変えようとしている人々の素顔に迫った。

連載6回目は、ハンガリー発「Team Puli」のチームリーダー、ティボール・パッチャー氏にインタビューを行った。ティボール氏は、物理学の研究者としてのキャリアを積んだ後、Google Lunar XPRIZEへの参加を通じて宇宙産業に身を投じることとなった。アメリカや、ヨーロッパ、ロシアなどの国と比べ、ハンガリーと宇宙開発のイメージはなかなか結びつかないという方も多いかもしれない。しかし、ハンガリーは宇宙開発の歴史が長く、技術的遺産も多く残されている国なのだ。ボランティアを含め、100名以上のメンバーの力を合わせて月を目指す「Team Puli」は、なぜレースに挑戦することを決めたのか? このインタビューで明らかにしたいと思う。

Team Puliロゴ

ハンガリーの宇宙開発の歴史は、自分たちで切り拓く

− 最初に宇宙に興味を持ったきっかけは何ですか?

ティボール氏:話せば長くなるのですが、NASAのアポロ計画が最初のきっかけだったと思います。私は1960年代、アポロ計画による有人月面着陸をテレビで見て育った多くの子どもたちの一人です。自分にとって1960年代は、宇宙に素晴らしい可能性を感じることができた時代でした。夏の間、野原に寝そべって星を眺めたりもしていましたね。

「Team Puli」のチームリーダー、ティボール・パッチャー氏

− たしかに、1960年代は、人類と宇宙がより近づくイベントがたくさんありましたね。では、宇宙産業に携わるようになったのはいつごろからなのでしょうか。

ティボール氏:物理学者として、ESA(欧州宇宙機関)の赤外線宇宙天文台のミッションに関わった経験はあるものの、2000年頃までは直接宇宙産業に関わることはありませんでした。しかしGoogle Lunar XPRIZEに参加することで、ハンガリーの宇宙産業に大きく貢献できると考え、携わることを決めました。

− ハンガリーの宇宙産業はどれくらいの規模なのでしょうか?

ティボール氏:現在の規模は、特に大きいわけではありません。しかし、ハンガリーはソ連時代に多くの宇宙開発ミッションに携わっていました。ソユーズ(ソ連およびロシアの有人宇宙船。1967年から運用が開始された)にもハンガリーから宇宙飛行士を送り込んだことがあります。私たちは、Google Lunar XPRIZEを通してハンガリーの宇宙産業を活性化させたいと知恵を絞っていますが、ハンガリー全体が私たちの挑戦を応援してくれているわけではありません。いままでにない試みなので、理解してもらう難しさも感じています。しかし、このプロジェクトを通してハンガリーのみんなが月を見上げ、「誰でも最先端の技術開発に携わるチャンスがあるんだ」と感じてほしいのです。

− この月面探査レースに参加したきっかけは何だったんですか?

ティボール氏:2008年頃、 Google Lunar XPRIZE の参加チーム「 Synergy Moon 」のメンバーに出会い、このレースの話を聞きました。それから1年半あまり考え続けたのち、「自分たちの手で、ハンガリーから参加してやろう」と決めたのです。Synergy Moonのメンバーは、一緒にやらないかと誘ってくれたのですが、ハンガリーの優秀なエンジニア、そして素晴らしい人々と、「Team Puli」として宇宙開発に参加することを決めました。つまり「自分で旅を始めなければ、どこにも行けない」ということです。「目指す先に何があるかわからないからこそ、自分たちでやる必要がある」と感じたのです。

ビーチを走る、Team Puliのローバー。ホイールが特徴的だ

HAKUTOと同じく、エンジニアからPR、学生まで、100名以上の「プロボノ」が宇宙開発に挑戦中

− Team Puliのメンバーは何人で構成されているのでしょうか?

ティボール氏:20名ほどのコアメンバーのほかに、100名以上のプロボノ(ボランティア)メンバーが参加しています。苦労はたくさんありますが、「自分たちの手で時代を作る」という目標が、チーム共通の目標となっています。

− 私は学生プロボノメンバーとしてHAKUTOに参加していますが、Team Puliはどのような職種の人々で構成されているのでしょうか?

ティボール氏:さまざまなバックグラウンドをもったメンバーがいます。機械、電気、ソフトウェア、データ解析のエンジニア、そして開発だけでなく、資金集めやプロモーションを担当する優秀なメンバーがいます。学生のメンバーも在籍していますよ。

「Team Puli」を構成するチームメンバー

− Google Lunar XPRIZEをきっかけとして、さまざまな人が宇宙開発に携わることができるようになったと感じています。Google Lunar XPRIZEは将来の宇宙開発においてどのような意味を持つとお考えですか?

ティボール氏:日本のHAKUTOがau、ドイツの Part-Time Scientist Part-Time Scientist がAudi、アメリカの Astrobotic がDHLといったように、規模と実力のある企業がGoogle Lunar XPRIZEに参加するチームの支援に動き出していることは、私たちもうれしく思っています。Google Lunar XPRIZEは民間による宇宙開発の促進に大きく寄与しており、歴史に残るものになるでしょう。レースが続く中で、新たな宇宙関連企業が生まれてくることもあるでしょうし、非常に意義深いものだと思います。

レースが終わっても、月面探査は終わらない。月には人類の新たなエネルギー資源が眠っている

− 最後の月面着陸となったアポロ17号(1972年)から、半世紀近く経ちましたが、なぜTeam Puliをはじめ、ふたたび人々は月を目指すのでしょうか?

ティボール氏:アポロ計画は政治的な要素があったことについて留意しなければいけないと思います。まだ、月には多くの探査対象がありますし、多くの情報が手つかずのまま眠っています。Moon Village(2020~2030年までに建設が予定されている、宇宙飛行士が数か月滞在可能な月面基地。欧州宇宙機関が計画している)の構想も進んでいますし、新しいテクノロジーによって、早く安く、月にアクセスできるようになる時代が来るはずです。また、月面探査はレースで終わりではありません。たとえば、月面には「ヘリウム3」という、核融合発電(原子力に代わるエネルギーとして期待されている発電方法)の燃料になる資源が豊富に存在しています。核融合発電は、今後数十年内の実用化を目指して研究されていますが、それまでに月面の資源探査が進んでいれば、大きな利点になるかと思います。

− プロジェクトを進める中で、プレッシャーは感じていますか?

ティボール氏:もちろんプレッシャーはあります。資金集めも非常に難しい。しかし、私には財務マネジメントの経験があるので、少ないリソースでもプロジェクトを続けていくことができます。このプロジェクトは私にとって生きる目標です。「地球の外に出ていくこと」「宇宙の資源を使うこと」、そしてまだ解き明かせていない問題を調査することが大切だと考えています。

− 実際に月に行くローバーの話を聞かせてください。Team Puliのローバーの特徴は何ですか?

ティボール氏:私たちは、市場に存在する技術やシンプルな機能をローバーに活用しています。また、ローバーを月に送り込むための着陸機であるランダーも同様に設計を進めています。すでにローバーの一連の機能試験、コントロールシステムの構築は終わっており、現在、月に送り込むための実機の開発に着手しています。無事に資金が集まれば、1年以内に開発は完了するでしょう。

Team Puliのローバー

− 順調に開発が進んでいますね。レースの競争相手としてHAKUTOをどう見ていますか?

ティボール氏:HAKUTOは一つひとつ、確実に開発を進めていると聞いています。HAKUTOが月面を500メートル走行できれば、私もうれしいです。

− これからの宇宙開発で、何か一緒に協力できるといいですね。最後に日本のみなさんに、メッセージをお願いします。

ティボール氏:HAKUTOさん、月で会いましょう! そして、日本のみなさんにお伝えしたいのは、HAKUTOについて興味をもってほしいということ、そして彼らの成功を願ってほしいということです。

ハンガリーからGoogle Lunar XPRIZEに参加する「Team Puli」。彼らはレースを通しての月面探査や単なる技術競争にとどまらず、「ハンガリー発」のチームとして参加する意義を強く考えているように感じた。このチャレンジを通じ、ソ連時代から受け継がれる、ハンガリーの宇宙産業の歴史に新たなる1ページが刻まれる日も、そう遠くはないだろう。

PROFILE

村井太一 / TAICHI MURAI

東京理科大学4年。大学で機械工学を専攻する傍ら、2015年春よりHAKUTOプロボノメンバーとして活動開始。2016年春よりispaceのインタ―ンとしてもHAKUTOの活動をサポ―ト中。

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