HAKUTO

結婚式での偶然がきっかけ!?民間初の月面探査を行う「HAKUTO」その誕生から今までの経緯とは

2016.03.29

全ては、結婚式場でのオファーから始まった

2007年に始まった「Google Lunar XPRIZE」は、賞金総額3000万ドルの国際レースだ。レースと言っても、舞台は地球ではなく月。民間組織が開発したロボットを使って、月面探査を競う。そこに、日本から唯一参加しているのが「HAKUTO」である。国や政府ではなく、民間組織によるチャレンジ。壮大でロマンのあるプロジェクトだが、HAKUTO誕生のきっかけは、意外な場所だった。

代表の袴田武史は、「きっかけは、2009年に行われた友人の結婚式でした」と、当時を振り返る。その友人とは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の職員。アメリカのジョージア工科大学大学院に進学し、航空宇宙システムの概念設計で修士号を取得している袴田を始めとして、出席者には宇宙研究やビジネスに携わる人間が多い。袴田の隣に座った人間も、そんななかの1人だった。

「彼は、オランダからGoogle Lunar XPRIZEにエントリーしていた「ホワイトレーベルスペース」の関係者でした。日本の協力を模索しており、私に声をかけてくれたのです」

「ホワイトレーベルスペース」が日本に協力を求めた理由とは?

ホワイトレーベルスペースは、月に着陸する船のエンジニアが中心のチーム。月面を探査するロボットのエキスパートがいなかった。また、50億〜100億円かかるといわれている資金集めにも苦労していたという。

「そこで、日本と共同でチームを組んで、ロボット技術や資金を補おうとしていたわけです」

HAKUTO誕生のきっかけとなった、
ホワイトレーベルスペース

技術面では、現在HAKUTOでローバー開発を担当している東北大学の吉田和哉教授に協力を要請していた。袴田が打診されたのは、資金調達と組織運営への協力だ。

当時、宇宙開発を民間で進めることを夢見ていた袴田。といっても、宇宙飛行士やロケット開発を目指していたわけではない。宇宙開発におけるPR活動やコスト管理といった役割を学ぶために、コンサルティング会社で経験を積んでいた。ホワイトレーベルスペースからの申し出はまたとないチャンスに映ったが、資金調達額は、50億円といった途方もない数字だ。腹を決めるまでに、半年ほど悩み抜いた。

「最終的にはホワイトレーベルスペースの関係者や吉田教授と飲んでいて、その熱意と勢いでやろうと決めました。まずは、コンサルディング会社を続けながら、週2日、ボランティアとして宇宙の仕事に携わる二足のわらじです」

当時のチーム名は、「ホワイトレーベルスペース・ジャパン」。ボランティアメンバーを集めて合同会社を設立したり、クラウドファウンディングの活用や企業の広告スポンサー集めの方などを検討したりしながら、徐々にプロジェクトとしての体裁を整えた。そして、このときの知見が、のちにHAKUTO運営の大きな原動力となる。

突然の撤退。そして「HAKUTO」が誕生した

2013年春、事態は大きく動いた。プロジェクトの母体であるホワイトレーベルスペースが、資金難から活動を休止したのだ。常識的に考えれば、日本側も撤退したほうが無難である。しかし袴田は、「いま撤退すると絶対後悔する」と感じたという。

「こうなったからには、すべて投げ出して100%コミットしなくてはならない。それでもダメだったら、潔く辞めよう」。そう考えて、勤めていたコンサルティング会社を退社。HAKUTOを立ち上げた。

HAKUTOとは「白兎」の意味。日本で語られる「月に兎がいる」といったおとぎ話から生まれた名前であることは、言うまでもないだろう。ちなみに、ロゴにもこだわりがあり、ウサギのシンボルである長い耳と頭文字「H」をモチーフとして組み込み、「上昇」や「飛翔」をイメージさせる図案を配置。赤色は日本らしさや情熱を表す色として使用しているとのことだ。

「実は、当初、「ちょんまげスペース」なんてチーム案もあったんですよ。もし、そのままだったら、スポンサーが集まらなかったかも」と袴田は笑う。しかし、これはある意味「HAKUTO」の本質を突いている。ちょんまげスペースというユニークな名前を楽しめる雰囲気が、HAKUTOの強みなのだ。そして、その強みは、独特のチーム形態にある。

プロボノによる参加制度を活用することで、普通の人でも楽しく宇宙に挑戦できる

HAKUTOは、袴田が社長を勤めるベンチャー企業「ispace」とローバーを長年研究してきた「東北大学吉田研究室」、そして「プロボノ」と呼ばれる仕事を通じて培った経験やスキルを活かすボランティアを三本柱としている。民間初の月面探査を行うプロジェクトにボランティア!?と驚くかもしれないが、袴田は、「当初は、資金面からボランティアに頼らざるを得なかった」と正直に語る。しかし、様々な分野から集まったボランティアは、今ではHAKUTOにかかせないメンバーとなっている。

「ボランティアメンバーは、宇宙に関わりたいけれど、仕事などの関係で100%はコミットできない人たち。自らの経験や専門スキルを活かして、ローバー開発だけでなく公式サイトやSNSの運営、グッズ作成、イベント企画などで携わってもらっています」と袴田。皆でひとつの目標に対して意見を出し合い、楽しみながらプロジェクトを進めていく。さながら、学生時代の文化祭準備のようだ。チーム名に、ちょんまげスペースという名が提案された雰囲気も理解できる気がする。

ローバーの開発が加速。上位5チームに与えられる中間賞を受賞

これらの新しい取り組みや日本から唯一、民間初の月面探査に挑むといった試みは話題を呼び、2013年夏にはいくつかのテレビにも取り上げられた。そこから知名度は飛躍的に上がり、企業からのスポンサードやコラボレーションも順調に進む。それに伴い、ローバーの開発にも弾みが付いた。2013年12月には、地上でシステムの実効性を検証する「エンジニアリングモデル」が完成。静岡県の中田島砂丘でフィールド実験を行った。

中田島砂丘でフィールド実験

2014年8月には、打ち上げや宇宙環境に耐えうる部品や構造を設計に組み込んだ「プリフライトモデル1」が完成。振動試験・熱真空試験を経て、宇宙環境に耐えうることを証明した。この功績により、2015年1月に、参加チームの中で技術が進んでいるチームに贈られる「Google Lunar XPRIZEモビリティサブシステム中間賞」を受賞している。

その後、2015年8月には「プリフライトモデル2」が、10月には「プリフライトモデル3」が完成。より一層の小型・軽量化を目指し、バッテリーのみに頼らない太陽電池パネルを貼付けた。また、遠くまで通信可能な900MHz帯と、高速通信が可能で日本国内での実験に最適な2.4GHz帯の、ハイブリッド通信システムを搭載するなど進化を重ねている。

一連のプリフライトモデルの実験結果が出そろったら、いよいよ、実際に打上げる「フライトモデル」の設計に入る。2016年夏を目処に設計を完成させて、2017年末までの打ち上げを目指しているという。

袴田は語る。「Google Lunar XPRIZEは、2017年末に終了します。しかし、このレースが終わっても HAKUTOのプロジェクトは終了しますがispaceとしては活動を続けます。このレースで培った知見を生かして、月の資源開発を進めるのが目標。そして、どんな夢みたいなチャレンジでも、仲間を集めて、努力して、アイデアを出し合えば、必ず実現できることを示したいと考えています」

HAKUTOの情熱は、数多くの仲間を引き寄せて、「夢」を現実にしつつある。彼らの歴史はまだ始まったばかり。これが、日本の宇宙産業で民間が活躍するきっかけの、第一歩になるのかもしれない。

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