ムッタが訊く!【第1回】一年で7kgから4kgに。超軽量HAKUTOローバーフライトモデル

みなさんこんにちは。南波六太です。いよいよ始まりました新企画「ムッタが訊く!」。
いろんな宇宙の専門家に、私、南波六太が直撃。ややこしい宇宙の話を、わかりやすーく聞いていきます。
第一回のゲストは、世界初の民間月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に、唯一日本から参加しているチーム、HAKUTO。そのローバー(月面探査機)を開発している四人のエンジニアたちです。

中編:全ては「4kg」を実現するために

2016.08.29

南波六太

宇宙飛行士

田中利樹

サーマルデザイン・エレクトロニクスエンジニア

古友大輔

メカニカルエンジニア

清水敏郎

ソフトウェアエンジニア

工藤裕

エレクトロニクスエンジニア

新素材との出会い

ムッタ:ここから軽量化の工夫について聞かせてください。

古友:まず今のローバーの主構造材はCFRPです。最初はアルミと鉄でした。

ムッタ:CFRP…炭素繊維、ですよね。

古友:さすがですね、ムッタさん。CFRPはスポーツカーとか飛行機にも使われていて、軽くて強いのが特徴です。値も張るんですが、ちょうど軽量化について悩んでいた2014年頃、たまたま使えることになって。CFRPを使うことで、アルミの総重量比を30%から5%まで落とすことができました。

ムッタ:今回のローバーにピッタリだったんですね。

古友:はい。強度が不安だったんですけど、振動実験をクリアしました。

ムッタ:どのくらいの強度が必要なんですか?

古友:ローバーには、大きな衝撃が3回かかるんです。まず、ロケット打ち上げの振動。次に、着陸船が月面に着陸する衝撃。最後が、ローバーが月面に着陸する衝撃です。一番大きいのが打ち上げの振動。ローバーは、14Grmsの振動に耐えられるように作ってあります。

ムッタ:14Grmsというと…

古友:飛行機が離陸する時の振動がだいたい0.5Grmsなので、その30倍位ですね。

ムッタ:すごいですね。

田中:軽量化でいえば、ホイールにもこだわってるよね。

古友:ウルテムを使ってます。

ムッタ:ウルテム…プラスチックの一種ですね。

古友:はい。特殊プラスチックです。軽くて、あと熱にとても強いんです。車輪の断熱性が高いというのは大事なんですけど…この部分は、のちほど田中から説明します。

ムッタ:レゴリス(編集註:月面を覆っている細かい砂)は滑りやすいので、機体が軽いと走りにくいと思うんですけど、そこの対策はどうしてますか?

古友:フライトモデルでは、ホイールを囲むように15枚の歯がついています。歯が多いほど、トルクが上がって、月面を滑らないように走れます。一方で、歯が増えると重量も増えます。そのバランスを考えた時、15枚が最適だったんです。

歯の数とトルクの相関グラフ

カメラ、基板、CPU

ムッタ:工藤さんのご専門は何ですか?

工藤:カメラと電子基板です。このレースのミッションの一つが「月面の高解像度の動画や、360°撮影の静止画を地球に送信する」というのと、あとカメラが撮った映像を見ながらローバーを操縦するので、今回カメラはかなり大事です。

ムッタ:今はカメラが4つ付いてるんですね。

工藤:最初、カメラは1つでした。360°映る半球形の鏡をローバーの上に取付けて、その下にカメラを設置して、360°映像を撮影していました。ただそれだと振動の影響を受けやすいし、重くなってしまった。そこで、小さくて軽いカメラを前後左右に4つ配置することにしました。カメラの性能自体は、一世代前のスマホに搭載されているものと同じレベルです。

ムッタ:身近な技術が使われてるんですね。

工藤:民生品の活用は、HAKUTOの開発テーマの一つです。あと軽量化でいうと、電子基板でも工夫しています。宇宙船とか人工衛星の電子基板って、放射能や振動から守るために一つ一つアルミの箱に入ってるんです。この箱を田中さんが全部取っ払ってしまった。「過保護だ!」といって(笑)。

ムッタ:(笑)

田中:アルミの箱がなくても放射線や振動に耐えられるか実験したら、耐えられるという結果が出たんです。

ムッタ:カメラも基盤も、軽量化とパフォーマンスのバランスをとって設計されているんですね。清水さんはどうですか?

清水:自分はソフトウェアが専門なので、物理的な軽さは求められることはないですね。ただ、間接的には関係しています。たとえばローバーの脳にあたる、CPU。このCPUのパワーを制御することが、軽量化につながります。

ムッタ:CPUのパワー制御が軽量化につながる?

清水:はい間接的に。CPUが動作すると、電力が消費されて、熱が発生します。電力の消費が大きいと、電池や太陽光パネルを大きくする必要があります。また熱の発生が大きいと、排熱設備が必要になります。つまり、CPUをコントロールできていないと、ローバーの総重量が増加するんです。今ローバーはCPUを2つ積んでいるんですが、基本的には1つで済むように設計されてるんですよ。

ムッタ:エンジニアの皆さんの工夫が積み重なった結果、わずか1年で、7kgあったローバーを、4kgまで軽量化できたんですね。

古友:1kgが1.2億円ですから、3.6億円の節約です。

ムッタ:そう言われると、改めてすごいですね!

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