Google Lunar XPRIZE

宇宙業界は大きな転換点へ。世界中で進化する民間宇宙探査におけるHAKUTOのポジションとは?

2016.04.07

世界的な経営コンサルティングファーム、A.T.カーニーに所属しながらHAKUTOのプロボノメンバーとしても活動する石田真康。宇宙ビジネスの潮流に精通している石田が考える、世界から見たHAKUTOのポジションとは?

アポロ計画から45年、今再び世界は月に向かう

1972年12月11日のアポロ17号による人類最後の月面着陸から約45年。今再び世界の宇宙業界において月が注目を集めている。

2030年代に向けて火星有人探査の実現を目指すNASA(米航空宇宙局)は、火星探査を持続的に行うための中継地点として月に注目をしており、2020年代に月軌道上に宇宙飛行士が長期滞在可能なステーションを建設することを目指している。

さらに、NASAの研究者グループがまとめたレポートには、"Lunar COTS: An Economical and Sustainable Approach to Reaching Mars"がある。本レポートではNASAが火星探査を継続的に行っていくために、COTSプログラム(国際宇宙ステーションへの商業輸送サービス確立のための開発・実証プログラム)を月に適用して民間企業参入を加速させることがNASAにもメリットがあると言及している。

例えば将来的には「Lunar ISRU (In-Situ Resource Utilization) Production and Delivery Services」として、月の現地材料を利用し、NASAが火星に向かうために必要な水(H2O)もしくは液体酸素(LOX)や液体水素(LH2)などの燃料を、民間企業から調達・購入する長期契約などもアイデアとして記載されている。

ESA(欧州宇宙機関)も2020年~2030年までに、宇宙飛行士たちが一度に数か月滞在可能な月面基地「Moon Village」の建設を計画している。同計画では、基地建設のための資材を地球から運びこむのではなく、まず初めに巨大な3Dプリンターを月面に送り込み、月面を覆うレゴリスなどの現地にある資源を使って基地を作っていくことも検討されている。

さらに、中国も月探査計画「嫦娥(じょうが)」を進めている。2007年と2010年には月周回軌道から探査を行い、2014年12月には無人着陸船「嫦娥3号」が月面着陸し、搭載していた無人走行ローバー「玉兎号」を走らせて注目を集めた。2020年以降の有人月面探査も視野に入れており、米国に次ぐ世界で2番目の月面有人探査の成功を目指している。

民間で月面を目指す探査レース「Google Lunar XPRIZE」の狙い

国だけではなく、民間の動きも活発化している。最も注目を集めているのが、米XPRIZE財団が主催して米Googleがスポンサーを務める月面探査レースの「Google Lunar XPRIZE」だ。

世界中から現在16のチームが参戦しているこのレースでは、2017年末までに月面に純民間開発のロボット探査機を着陸させ、着陸地点から500m以上走行し、指定された高解像度の動画や静止画を地球に送信することがミッションとして定義されており、賞金総額は3000万ドルに及ぶ。

XPRIZE財団はこのような賞金コンテストを多数主催しているが、着想の原点は1927年のチャールズ・リンドバークによる大西洋単独無着陸横断だ。チャールズはニューヨークーパリ間を無着陸で飛行した者に与えられる「オールティーグ賞」の賞金を与えられて世界的な名声を得た。彼の成功がその後の航空産業の発展に大きく貢献したと言われている。XPRIZE財団は自らを「innovation engine」とうたっており、賞金コンテストというツールを用いて、未開拓分野におけるエコシステムを形成するのが狙いだ。

宇宙分野では既に賞金コンテストの実績もある。2004年に宇宙弾道飛行(軌道に到達せずに大気圏外に達する飛行形態。昨今話題の宇宙旅行にも使われる)を対象としたコンテスト「Ansari XPRIZE」が開催され、有人宇宙船「SpaceShipOne」が優勝した。その後、SpaceShipOneから技術提供を受けて、レコードレーベルVirgin Recordの創設者であるリチャード・ブランソン氏が米Virgin Galacticを設立、宇宙旅行事業の立ち上げを進めている。さらに、同分野には米Amazonの創設者・CEOであるジェフ・ベゾス氏が創業した米Blue Originも参入するなど活況を呈してきた。

政府だけでなく民間も月や火星へ。大きな転換点にある世界の宇宙業界

XPRIZE財団によると、今回のGoogle Lunar XPRIZEでは将来の惑星探査に求められる着陸系、走行系、画像処理系の基礎技術構築が期待されるという。従来こうした技術開発の中心はNASAであり、火星探査としては「ソジャーナ」「スピリット」「オポチュニティー」「キュリオシティー」など無人走行ローバーの開発と実用に成功している。NASAはこうしたプロジェクトの中で様々な探査技術を確立してきた。

こうした技術蓄積に加えて、今回のGoogle Lunar XPRIZEでは民間企業やチームによる創意工夫や新技術導入などが期待されている。昨年来日した同財団のテクニカルディレクターを務めるアンドリュー・バートン氏は、XPRIZE財団が取り組む民間宇宙探査の強みとして「Agile(機敏さ)」「Faster(速さ)」「Cost effective(低コスト)」というキーワードを挙げた。

惑星探査というと科学的なイメージをする方が多いかもしれないが、例えば宇宙資源探査とその利活用も対象だ。2015年11月には、米オバマ大統領が世界で初めて米国市民・企業による宇宙資源探査活動を認める関連法案にサインをした。1967年に国連で決議・発効された宇宙条約に反するとの声も上がっているが、既に欧州でもルクセンブルクが法整備にむけた準備を開始するなど、徐々に熱を帯び始めている。

世界の宇宙業界は今まさに大きな転換点にある。政府だけでなく民間が火星や月を目指し、人類が複数の惑星に住む世界を夢見て大きな動きが出てきている。このような大きなうねりの中で今回のGoogle Lunar XPRIZEが果たす役割は大きく、それであるが故に世界から注目を集めているレースとなっているのだ。

NASAの火星探査車 キュリオシティ(出典:NASA)
地球から月面までの輸送インフラビジネスを目指す米Astrobotic
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