ライバルチームの素顔

【vol.7】ローバーなしでミッション達成を目指す、マレーシアの「Independence-X」

2016.09.28

世界10か国以上から16の民間チームが参戦する人類初の月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」。HAKUTOだけでなく世界中の対戦チームたちも、月への熱い思いを持ち、ヴィジョンを本気で実現するためのエネルギーに満ち溢れている。

1969年にニール・アームストロングが月の大地を踏みしめてから47年。いま、人々はなぜふたたび月を目指すのか。大学で機械工学を専攻する傍らHAKUTOで活動を行う村井太一が、HAKUTOのライバルであり、共に月の開拓を目指す同志でもあるGoogle Lunar XPRIZE参加チームのメンバーへインタビューを実施。月面探査で世界を変えようとしている人々の素顔に迫った。

「Google Lunar XPRIZE」に、マレーシアから唯一参加するチーム「Independence-X」。同チームを率いるイズミル・ヤミン氏は、宇宙開発を手がける「Independence-X Aerospace」と、ドローン開発を手がける「Pulser UAV」という2つのベンチャー企業を経営している若手起業家だ。

Independence-Xロゴ

彼は「Independence-X Aerospace」で、4体のロケット開発に取り組んでおり、3体目の「INDEPENDENCE-III」は、マレーシア初の液体燃料ロケットとして打ち上げに成功している。現在、4体目の「INDEPENDENCE-IV」を開発中のイズミル氏に話を訊いた。

Independence-X代表のイズミル・ヤミン氏

ロケット・ドローン開発企業を次々と立ち上げる、イズミル氏に迫る

− まずは自己紹介をお願いします。

イズミル氏:Independence-Xの代表、イズミル・ヤミンです。私たちのチームは2017年末までの「Google Lunar XPRIZE」ミッション達成を目指し、現在はランダー(月面着陸機)用のロケットエンジンの開発に取り組んでいます。

− 宇宙開発事業に興味を持ったきっかけを教えてください。

イズミル氏:過去に宇宙開発プログラムの一環で、人工衛星を打ち上げるためのロケット開発に携わったことがきっかけです。宇宙へのアクセスは非常にコストがかかります。私たちはより経済的な方法を叶えるため、日本やインドの例を参考に固体燃料ロケットの研究開発から始めました。固体燃料ロケットは、液体燃料ロケットに比べて製造が容易で、推力性能も優れています。そして、固体燃料ロケットから得られたノウハウをもとに、液体燃料ロケットエンジンの開発に移行しました。私たちはいま、マレーシア初の衛星打ち上げロケットの開発を目指しています。

− イズミルさんは、宇宙開発を手がける企業「Independence-X Aerospace」以外にも、「Pulser UAV」というドローンの企業も経営されていますよね。

イズミル氏:「Pulser UAV」では、現在6翼のドローンを開発しています。現行のドローンは、リチウム電池駆動だと2時間程度しか航行できないのに対し、水素燃料電池を搭載すると最大10時間の航行が可能です。その技術が完成すれば、農業用のリモートセンシング(遠隔探査)や、油田の監視といった用途が考えられます。さらに、リモートセンシングの技術を人工衛星に応用し、より広範囲にサービスを提供していくことを目標としています。

ドローン事業を手がける「Pulser UAV」のスタッフ

− 幅広く事業に取り組むなかで、Google Lunar XPRIZEに参加しようと決めたときのことについて教えてください。

イズミル氏:Ansari X Prize(2004年にアメリカで開催された、XPRIZE財団による民間の最初の有人弾道宇宙飛行を競うコンテスト)を通して、Google Lunar XPRIZEについて知り、「エキサイティングな開発競争だな」と感じました。私もこのレースに参加して、宇宙産業を当事者の立場から変えていかなくては、と考えたのです。実際に、Google Lunar XPRIZEに参加したことで、宇宙開発に携わる多くの人々に出会い、多くの産業が衛星や探査機を用いた観測分野への参入をきっかけに宇宙開発を始めるということを知りました。

ロケット技術の実用化も視野に。自分たちの挑戦で、マレーシアの宇宙開発を引っ張っていきたい

− チームメンバーの構成を教えてください。

イズミル氏:現在はおよそ12人で、ほぼ全員がボランティアメンバーとして参加しています。フルタイムメンバーは3人で、そのうち2人はロケットエンジニア、あとの1人はビジネス担当です。

− 宇宙開発にかけるリソースはどのように確保しているのでしょうか。

イズミル氏:チームは、人材の確保やスポンサーの獲得、クラウドファンディングに奔走しています。そのおかげで、マレーシア国内には宇宙工学エンジニアが少ないにも関わらず、エンジン推進系、通信、制御、構造を担当できるマルチなエンジニアがチームに在籍してくれているんです。まだ充分なリソースがあるとは言えませんが、2016年10月に予定されているロケットエンジンの燃焼試験には、多くの援助が集まると期待しています。

会議の風景

− やはり資金の問題はどうしても付いてまわるんですね。国内外問わず、投資の獲得に奔走している状況なのでしょうか?

イズミル氏:じつは、投資よりもスポンサーシップや寄付を得ることに力を注いでいるんです。なぜなら、政治的な圧力が私たちの宇宙開発に干渉するのを避けたいから。Independence-Xの活動が正しい方向に進むことができれば、東南アジアだけでなく、アジア全体へ宇宙事業を拡大できるのではないかと考えています。

− Google Lunar XPRIZEの先に描いているヴィジョンはありますか?

イズミル氏:ロケットの開発に力を注いでいこうと考えています。私たちはGoogle Lunar XPRIZEへの参加と並行してロケットの開発をしています。現在開発中のロケット「INDEPENDENCE-IV」から、「INDEPENDENCE-V」「INDEPENDENCE-VI」と順調に計画が進み、最終的に「INDEPENDENCE-X」が完成すれば、衛星の軌道投入能力を持った自前のロケットが実現します。そして、そのロケット技術を世界のベンチャー企業が使ってくれることを期待しています。

Independence-Xの2023年までのヴィジョン

− チームを立ち上げて、ここまで引っ張ってくるなかで、プレッシャーを感じたことはありますか?

イズミル氏:決して簡単な道ではありませんでした。しかしメンバーが集まってくれて、真剣な議論を繰り返し、開発を行ってきました。今後もマレーシアの宇宙産業を前に進めていきたいですし、これから先も、より多くの情熱を持った人々がわれわれに参加してくれると信じています。

ローバーで走行するのではなく、月面着陸機をホッピングさせて月面移動!?

− Google Lunar XPRIZEでは、自分たちで開発したロケットで宇宙機の打ち上げを行うのでしょうか。

イズミル氏:打ち上げに関しては、インド宇宙研究機関が開発したPSLVというロケットの使用を考えています。ペイロード(積荷)には、宇宙機のほか、国旗、スポンサーの旗、宇宙機のセルフイメージを撮影するための独立カメラモジュールなどを搭載する予定です。また、ペイロードにはあと150kgほどの荷物を載せることができるので、利用したい人を募っていきたいと考えています。

− 実際のレースでは、ローバーを使わずにランダー(月面着陸機)で移動することを狙っているそうですね。

イズミル氏:じつは、Google Lunar XPRIZEのミッションである月面移動の手段はローバーだけに限られていません。私たちはローバーを使わず、ランダーを使って、月面着陸後にホッピングしながら500メートルを移動する予定です。

Independence-Xの宇宙機

− 競争相手としてHAKUTOをどう見ていますか?

イズミル氏:日本の宇宙開発の歴史は、私に多くのインスピレーションを与えてくれました。アジアのビッグブラザーのような日本のチームが参加していることを嬉しく、頼もしく思います。そして、イノベーションを起こそうと前に進むHAKUTOも、同じアジアから月を目指す仲間として応援しています。

− 私もアジアから参加しているチームを頼もしく思います。ありがとうございます。最後に日本のみなさんに、メッセージをお願いします。

イズミル氏:Google Lunar XPRIZEは、ただ競争をするだけのイベントではありません。スポーツマンシップ、イノベーションの境界を広げ、人類について考え、新しい世界を切り拓く、チャレンジングなプロジェクトです。日本のみなさんも、自分を信じて何かに情熱を注ぎ、時間や知識、お金を投資し続けてみてください。そうすれば不可能なことはありません。これが私のメッセージです。

2016年8月29日、ついにHAKUTOのローバーのフライトモデルが発表されたが、Independence-Xはローバーではなく、ランダーで月面移動のミッション達成を目指すというから驚きだ。このように、チームごとに違うアプローチ、エンジニアリングの発想の違いに着目すると、Google Lunar XPRIZEをさらに楽しめるかもしれない。

PROFILE

村井太一 / TAICHI MURAI

東京理科大学4年。大学で機械工学を専攻する傍ら、2015年春よりHAKUTOプロボノメンバ―として活動開始。2016年春よりispaceのインタ―ンとしてもHAKUTOの活動をサポ―ト中。

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