HAKUTO

HAKUTOは果たして優勝できるのか?Google Lunar XPRIZEで勝敗をわける3つの要素

2016.04.13

Google Lunar XPRIZE は、大雑把に言えば「月面での500m競争」である。競争である以上、勝者がいて敗者がいる。「参加することに意義がある」という言葉があるものの、やはりHAKUTOが勝てるかどうかは気になるところだろう。Google Lunar XPRIZE発表時から取材してきたテクニカルライターの大塚実氏に勝敗の行方を伺った。

Google Lunar XPRIZEで優勝するためには何が必要か。たとえば野球なら、投手力、打撃力、走力、監督の采配など、様々な要素が考えられる。Google Lunar XPRIZEの場合、こういった要素は何だろうか。筆者は以下の3つを重要な要素としてあげたい。

1つ目の要素は「資金」
開発、輸送には企業や投資家からの資金提供が不可欠

Google Lunar XPRIZEは一種の競争なので、F1レースのように「とにかく速いマシンを用意すればいいじゃないか!」と思うかもしれない。でも、ちょっと待ってほしい。F1レースも、エンジンやシャーシの開発、優秀なスタッフの雇用、機材や人員の輸送などのために、膨大なコストがかかっている。十分な資金がなければ、参加することすらできないのだ。

Google Lunar XPRIZEもこれと同じ。月面を走るローバー(月面探査ロボット)を開発するための資金がまず必要だ。そして何より問題なのが、月面までローバーを運ぶ輸送費用である。Google Lunar XPIZEは、主催者が各チームのローバーを月面まで運んで行ってくれて、そこで一斉にスタートするようなレースではない。月面に行くための手段から、自分たちで用意しなければならない。

小型ローバーの開発だけでも、おそらく数億円規模の予算が必要になるだろう。そしてさらに、輸送のためにはロケットとランダー(着陸船)が必要だ。ロケットは、格安とも言えるSpaceX社(米国)のFalcon 9ですら、公称価格(2016年3月時点)は6,120万ドル。1ドル=114円換算で約70億円だ。Google Lunar XPRIZEはよく「賞金レース」の側面が強調されることがあるが、優勝賞金は2,000万ドル。これではロケット1本の費用にもならない。

この費用をどうやって集めるか。これが参加者に突きつけられた最初の、そして最大の課題である。とても個人からの寄付で集められるような金額ではないので、企業や投資家からの資金提供が不可欠。そのためには、ビジネスとして成立するようにアイデアを考えて考えて考え抜く必要がある。この結果として、民間による月面開発が加速する。これこそがGoogle Lunar XPRIZEの目的なのだ。

Google Lunar XPRIZEは、「月面のスタートラインに立つ」ことそのものが、とてつもなく難しいレースである。「どのチームが優勝するか」ということはもちろん、「何チームが月面にたどり着けるのか」という点にもぜひ注目してほしい。

SpaceXのFalcon 9ロケット

2つ目の要素は「輸送」
レース会場の月面に無事着陸できるかが最初の勝負

Google Lunar XPRIZEの勝利条件は、月面上を500m移動し、画像を送信することである。これを最初に達成できたチームが優勝となるわけだが、ここでまず重要なのは、最初に月面にたどり着くということ。Google Lunar XPRIZEは、みんなが月面に到着するのを待って、それから「ヨーイドン」でスタートするわけではない。既に「月面への到達競争」は始まっているのだ。

月に行くためには、ロケットを調達し、ランダーとローバーを打ち上げる必要がある。その上で、ランダーが軌道を制御し、月面に無事着陸しなければならない。それが成功することで、ようやくスタートラインに立つことができるのだ。

現在のところ、最初の打ち上げとして有力視されているのは、イスラエルのSpaceILチームだ。同チームは2015年10月、Falcon 9による2017年後半の打ち上げを発表。Google Lunar XPIZE参加チームの中でロケットの打ち上げ契約を締結したのは、これが初めてだった。またその後、米国のMoon Expressチームからも、Rocket Lab社(ニュージーランド)のElectronロケットでの打ち上げが発表された。

「先を越されているからもう勝機はない」のかというと、そうとも限らない。ロケットとランダーとローバー、この3つの成功が優勝には不可欠。しかし、それぞれ技術的な難易度は高い。

もし100回のうち1回でも失敗するような乗り物があれば、一般常識で言えば「とても怖くて乗れない」だろう。だが現代のロケットは、100回に5回失敗しても「信頼性が高い」と評価されるほど。ロケットの成功・失敗に関しては、Google Lunar XPRIZEの参加チームにとっては努力しようがないことであるため、成功を祈りつつ、やるべきことをやるしかない。

SpaceILが使用するFalcon 9は、急速に実績を増やしているロケットだ。ただ、2010年の初飛行以降、順調に成功を積み重ねてきたが、昨年6月、19回目の打ち上げで初めて失敗してしまった。そしてMoon Expressが使用するElectronに至っては、まだ打ち上げ実績がない新型ロケットである。完成が遅れる可能性もあるし、信頼性も低いと言わざるを得ない。

ちなみにHAKUTOは、SpaceIL と同様にFalcon 9での打ち上げを予定している。ランダーは米国のAstroboticチームへの相乗りだ。HAKUTOは当初、オランダのWhite Label Spaceというチームとの協力でGoogle Lunar XPRIZEに参加していたが、ランダーを開発していたWhite Label Space側が離脱。以降、ローバーだけのチームとなり、相乗り先を探していた。Astroboticにとっても、相乗りチームが払ってくれる「運賃」は重要な資金源となる。両者はライバルであり、パートナーでもあるのだ。

3つ目の要素は「技術」
地球とは違う環境で勝つための「着陸」「走行」「撮影」技術

そして月面のスタートラインに立つことができれば、やっとローバーの出番。ここからは純粋に技術力の勝負である。

月面は、地球とはまったく違う世界。空気は無いし、放射線は強い。日なたは高温で、日陰は極低温になる。地表はレゴリス(砂)に覆われていて走りにくい。この過酷な環境でも壊れないように作って、転ばないように走らせるだけでも、実は結構難しい。

砂丘で行われたローバーの走行試験(撮影:筆者)

Google Lunar XPRIZEには現在、世界中から16チームがエントリーしている。ライバルたちの技術力を考える上で、参考になるのが2015年に発表されたGoogle Lunar XPRIZEの中間賞(Milestone Prize)だ。ここでは、ランディング(着陸)、モビリティ(走行)、イメージング(撮影)の3つの技術について評価。モビリティについては、AstroboticとHAKUTO、そしてドイツのPart Time Scientistsの3チームが受賞した。主催者側から「優勝候補」として認定されたような形だ。

HAKUTOの強みは、実績がある宇宙技術を持っていることだろう。HAKUTOの技術リーダーは東北大学の吉田和哉教授。吉田研究室ではこれまで、多くの超小型衛星を開発、運用してきた。ローバーは、仕組みとしても衛星に近い。衛星開発のノウハウが、ローバーの開発にはかなり活かされているという。また、開発メンバーの中には、国際宇宙ステーションの実験機器の開発を経験しているメンバーもいる。大学の技術と民間の技術が融合し、最適なローバー開発のための道を模索している。

東北大学が開発した超小型衛星「雷神」(撮影:筆者)

ただ、Astroboticのローバーも相当有力であることは間違いないので、どちらが勝つかは正直わからない。試験の動画を見る限り、スピードはそれほど変わらない印象だが、実機の性能はまた別物。それに岩などの障害物があれば、進路を変更して避ける必要がある。本当に競争になった場合は、おそらくスピードよりも、コース取りの判断の方が勝負の鍵となるだろう。

Google Lunar XPRIZEで優勝するのは決して簡単ではないものの、現時点ではHAKUTOにも十分に可能性があると言えるだろう。競争はまだ道半ば。今後も各チームの動向に注目していきたい。

PROFILE

大塚実 / MINORU OTSUKA

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「完全図解人工衛星のしくみ事典」「日の丸ロケット進化論」(以上マイナビ)、「人工衛星の"なぜ"を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)など。宇宙作家クラブに所属。

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