ライバルチームの素顔

【vol.8】クロアチア航空業界のエリートは、宇宙業界へ。各国混合チーム「Stellar」

2016.11.02

世界10か国以上から16の民間チームが参戦する人類初の月面探査レース、「Google Lunar XPRIZE」。HAKUTOだけでなく世界中の対戦チームたちも、月への熱い思いを持ち、レースだけでなく、その先にあるヴィジョンを実現するためのエネルギーに満ち溢れている。

1969年にニール・アームストロングが月の大地を踏みしめてから47年。いま、人々はなぜふたたび月を目指すのか。大学で機械工学を専攻する傍らHAKUTOで活動を行う村井太一が、HAKUTOのライバルであり、共に月の開拓を目指す同志でもあるGoogle Lunar XPRIZE参加チームのメンバーへインタビューを実施。月面探査で世界を変えようとしている人々の素顔に迫った。

東ヨーロッパの国、クロアチア。アドリア海の真珠と呼ばれるドブロブニクなどは、誰もが一度は訪れてみたい観光地ではないだろうか。そんなクロアチアに拠点を置くチームが「Stellar」である。

Stellarは、インターナショナルかつ少人数のメンバーで構成されており、メンバーはアメリカやオーストラリアに散らばりながら活動に参加している。そんなStellarを率いるのが、現役の航空機パイロットのステファン・ベディチ氏だ。彼はクロアチアで史上最年少の航空機長として、国内の航空業界で輝かしいキャリアを積んできた。そんな彼が、なぜGoogle Lunar XPRIZE(以下GLXP)で月を目指そうとするのか訊いてみた。

「Stellar」ロゴ

クロアチア航空業界のエリートパイロット、宇宙業界へ

―まずは自己紹介をお願いいたします。

ステファン氏:Stellarのリーダーとして、4年半活動してきました。また、航空工学のエンジニアでもあり、航空会社で機長も務めています。機長として10年以上に渡るチームマネジメントの経験があるので、Stellarでも効率的で統率の取れたチームとなるよう運営を心がけてきました。

Stellarリーダーのステファン氏 photo by Team Stellar

―航空や宇宙に興味を持ったきっかけは何ですか?

ステファン氏:もともと家族が航空工学に関わっていたり、航空博物館のある街で育ったりしたので、最新の航空テクノロジーには常に関心を持っていました。それから、SF映画にも大きな影響を受けながら少年時代を過ごしました。

―私も同じくSF映画に魅了されてエンジニアを志した経験があります。では、宇宙業界で働くようになったきっかけは何でしょうか?

ステファン氏:エンジニア、パイロットとして、航空業界で経験を積んできましたが、この業界には限界があると感じていたんです。そんななか、あるテクノロジーカンファレンスで、 Synergy Moon(GLXPに出場するチーム)のメンバーに出会い、「参加してみないか?」と誘いを受けました。それまで、民間で月面探査を目指している人々がいるなんて知るよしもなかったので、非常に魅力的に感じました。

—なぜSynergy Moonではなく、自分たちでチームを立ち上げることにしたのでしょうか。

ステファン氏:残念ながら、彼らの戦略や取り組み方に賛同できなかったのです。Synergy Moonのメンバーは、SF映画作品にあこがれを持ち、宇宙に情熱を燃やしている人々でしたが、現実的な戦略や方法については曖昧でした。私にはそれが、チームとして当然のものが欠如しているように感じ、自分たちも民間で月を目指すためには、ゼロからチームを立ち上げるしかないと考えるようになったのです。

実験の様子 photo by Team Stellar

「宇宙業界で成層圏のビジネスを立ち上げ、開発の基盤を作りたい」

—ゼロからのスタートで、どのようにStellarの人材や資金を集めたのでしょうか。

ステファン氏:宇宙開発に興味がありそうな、いろんな知り合いに電話を掛け、賛同してくれる人を探しました。そして、一人目のメンバーとなったアメリカ人にワシントンD.C.まで会いに行き、一緒にStellarを立ち上げました。

また資金集めですが、ミッションを応援してもらうために企業を説得するのはとても難しいことでした。難航した理由の一つは、私たちもスポンサーも宇宙用の機械を試験する環境を持っていなかったこと、もう一つは、成功の可能性の低い宇宙開発に投資するリスクの高さが挙げられます。その他にも、数年かけてクロアチア宇宙局に働きかけて、宇宙の教育プログラムを立ち上げるに至りました。

—月面探査レースへの参加のために、教育プログラムを始めたんですか?

ステファン氏:教育プログラム自体は、「月面にローバーを送る」という直接的な目的には関係ありませんが、GLXPへのチャレンジだからこそ、クロアチア宇宙局とコラボレーションすることができ、そのおかげでスポンサーが少しずつ集まり、事業を開始することができたんです。

―Stellarは、インターナショナルなメンバーによるチームですが、世界各国の人々をどのようにマネジメントしているのでしょうか?

ステファン氏:CTO(最高技術責任者)を中心とした組織的な開発を行っています。具体的には、ローバー開発、ランダー開発、通信技術開発、資金調達などの部門毎に各国のメンバーに割り振って開発を進めています。そしてローバーやランダーのハードウェアは本拠地であるクロアチアで開発したいと考えています。また、ミーティングはスカイプで行っています。

Stellarローバーphoto by Team Stellar

―世界全体で、何人がこのチームに関わっているのでしょうか。

ステファン氏:現在は15人のメンバーを中心に動いています。また、ボーイング社やロッキード・マーティン社といった、経験豊富な元航空会社のエンジニアも7・8人、参加したいと言ってくれています。

―メンバーがバラバラに活動していると、モチベーションを保つ苦労も多いのではないでしょうか?

ステファン氏:「月にローバーを送ろう!」という当初のモチベーションは、プロジェクトが進行するにつれて落ち着いていきます。給料が出るということもモチベーションの理由としては不十分です。しかし、現在のメンバーは、時間のかかる難しいプロジェクトだと理解した上で、非常に高いモチベーションを保ってくれていてとても幸運です。その理由として、私たちのチームは「成層圏の市場を作る」という、より大きなゴールを目指しているということがあります。

Stellarを構成するチームメンバー photo by Team Stellar

—「成層圏の市場を作る」とのことですが、Stellarが目指している最終的なゴールを教えてください。

ステファン氏:GLXPのそもそもの目的は「新しい宇宙産業を切り拓く」ことなので、たとえば、宇宙ホテルを作るために参加しても良いわけです。そこで、私たちのチームは「成層圏に物資を送り込む」という宇宙産業を切り拓こうとしています。そしていずれは成層圏の先の低軌道、静止軌道、あるいはその外まで宇宙開発の範囲を広げていこうと考えています。こうして民間の宇宙開発が活発化すれば、その先には宇宙旅行も現実的に見えてくるでしょう。

成層圏への打ち上げ実験の様子photo by Team Stellar

「宇宙開発は、航空業界から学ぶべきことが多くある」

—ステファン氏は、航空業界にいた立場から、宇宙産業の市場をどのように切り拓いていくつもりなのでしょうか。

ステファン氏:私は宇宙に市場を生み出すために、「安全な技術を提供する」ことが重要だと考えています。仮に航空業界の知見を活かして、安全な宇宙船の開発を終えることができれば、そこには大きな市場が生まれるはずです。しかし、そのためには誰かが先頭にたって、市場と顧客を切り開かなければなりません。

宇宙業界は航空業界と類似する部分が多いにも関わらず、あまり多くを学んでいません。例えば航空業界は、さまざまな事故を防ぐために、乗員のトレーニング、整備やチェックリストに始まる安全管理のシステムを持っています。またビジネス面では、航空機、部品、運用、整備、管制管理、ソフトウェア開発、燃料、パイロットトレーニングなど、それぞれの強みを持つ企業があり、業界全体がすそ野の広いエコシステムを形成しているのです。宇宙業界はこれらのノウハウを持つ航空業界に学び、ビジネスモデルを作ることを大前提にするべきだと考えています。

―宇宙開発は新しい産業として、既存の産業から学ぶべきことが多くあるということですね。

ステファン氏:そうですね。宇宙業界はロケットを作って飛ばすだけでなく、もっとサービスにも目を向けるべきです。航空業界では航空機を製造する企業と、旅客サービスを提供する企業は分かれていますが、宇宙業界では一つの企業が製造から打ち上げ、サービスまで、すべてを行おうとしています。このままだと宇宙開発がワンボックス型に閉じてしまい、価格も高く、競争も生まれないままになってしまうのではないかと心配です。

―ちなみに競争相手としてのHAKUTOをどう見ていますか?

ステファン氏:チームサミットでお見かけするたびにHAKUTOが前進しているのを感じています。特に東京でのチームサミットの発表は素晴らしいものでした。HAKUTOは資金調達やエンジニアリングにおいて、参加チームのなかでもトップクラスという印象です。

―ありがとうございます。それでは日本のみなさんにメッセージをお願いします。

ステファン氏:HAKUTOは、GLXPの優勝候補チームの一つとしてトップを走っているので、ぜひこの熱狂を一緒に感じてほしいと思います。GLXPは、まだ多くの人に知られていませんが、とても価値のある素晴らしいプロジェクトです。意思決定と問題解決を繰り返し、リーダーシップ、フォロワーシップ、コミュニケーションスキルを磨く……。その先には、民間による宇宙開発の未来が広がっています。いま日本でそれが実現できるのは、HAKUTOだけだと思います。みなさんHAKUTOを応援してくださいね。

航空業界から宇宙業界に転身し、Stellarを率いるステファン氏。インタビュー中の彼は非常にドライで、淡々と話し続けていたが、確実にその眼には情熱が宿っていた。

PROFILE

村井太一 / TAICHI MURAI

東京理科大学4年。大学で機械工学を専攻する傍ら、2015年春よりHAKUTOプロボノメンバーとして活動開始。2016年春よりispaceのインターンとしてもHAKUTOの活動をサポート中。

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