茂木健一郎(脳科学者)

脳科学者・茂木健一郎が分析。民間の宇宙ベンチャーが月面探査にチャレンジする意義(前編)

2016.11.02

茂木健一郎

1962年、東京生まれ。理学博士、脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、慶應義塾大学特別研究教授。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了後、理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。専門は脳科学、認知科学。メディアへの出演、著書多数。

脳科学者の枠を超え、最近はシリコンバレーをはじめとした国内外のベンチャー企業に対しても知見を深めている茂木健一郎氏。そんな彼の目に、人類初の月面探査レースGoogle Lunar XPRIZEに挑戦する日本の宇宙ベンチャー、HAKUTOはどう映っているのだろうか。一見無謀に思えるプロジェクトに挑戦することの大切さとは? そして、そのときの人の脳に起こる影響とは? 脳科学の視点を交えて語ってもらった。

Google Lunar XPRIZEの成功率は50%。絶妙な難易度の設定が脳を奮い立たせ、イノベーションを起こす。

―「Google Lunar XPRIZE」に参戦する日本の宇宙ベンチャー、HAKUTOをご存知でしたか?

茂木:はい。注目していました。そもそも、民間の宇宙開発が盛んになったきっかけは、XPRIZE財団(賞金コンテストで世界にイノベーションを起こすことを目的とする非営利組織)が「Ansari X Prize」(2004年)や、今回の「Google Lunar XPRIZE」など、世界的な宇宙開発コンテストを開催し始めたことが大きい。これによって、20世紀までは冷戦など、国家間の特殊な競争でしかなかった宇宙開発が、次のフェーズに持ち上げられることになりました。ですから、Google Lunar XPRIZE優勝を目指すau×HAKUTO MOON CHALLENGEのプロジェクトは、日本の宇宙開発史においても、大きな意味を持っていると思います。

茂木健一郎氏

―民間企業が国の力を借りず、資金も自前でロケットを打ち上げ、月面を探査機で500m走るというミッションは、途方もないチャレンジにも思えます。

茂木:Google Lunar XPRIZEのような革新的なチャレンジでは、目標をどのくらいに設定するかが非常に重要なんです。難しすぎると誰も達成できないし、簡単すぎてもチャレンジ精神を掻き立てることができません。歴史を遡れば、コロンブス(1451年頃〜1506年)がスペインのイザベル王女(1451〜1504年)から資金をもらって大西洋を航海したのも「新大陸を発見する」という目標設定があったわけです。チャレンジにおいて適切な目標を設けることで、歴史は作られ、人類は進化してきたのです。

―目標は、どのくらいに設定するのが良いのでしょうか?

茂木:一般の脳科学においては、成功率50%くらいに設定するのが良いと言われていますね。いま、自動車の「自動運転技術」に注目が集まっていますが、これもアメリカの国防高等研究計画局(DARPA)による、『DARPAグランド・チャレンジ』というロボットカーレースがイノベーションのきっかけになりました。レースが始まった2004年当時は、技術的にギリギリだったのですが、この目標設定によって、アメリカの自動運転技術が発展しました。今回、Google Lunar XPRIZEの「月面探査機を500メートル自走させる」という目標も、おそらくXPRIZE財団が相当な考察を重ねて設定されたものだと思います。

日本の宇宙開発って、小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトが成功するまでは、アメリカ、ロシア、中国みたいな大国に敵わないと考えられていました。でも「はやぶさ」の成功体験によって、派手に国際宇宙ステーションを作るとかだけでなく、目指すもの次第で、日本人の得意とするチームワークや細かい品質管理などが発揮できると自信を持てたと思うんです。そういう意味でも、HAKUTOにはぜひ目標を達成してほしいですね。

宇宙開発はマニアのものだけではいけない。約50年振りの月面探査に茂木健一郎氏が期待するもの
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