茂木健一郎(脳科学者)

脳科学者・茂木健一郎が分析。民間の宇宙ベンチャーが月面探査にチャレンジする意義(後編)

2016.11.09

前編に続き「au × HAKUTO MOON CHALLENGE」について、茂木健一郎氏にお話をうかがうインタビュー。後編ではHAKUTOが優勝するために必要なもの、HAKUTOのチャレンジが持つ社会的意義、そしてチャレンジすることで与えられる脳への影響についてお話しいただきました。日々の仕事や生活にも役立つ至言が満載です。

困難なプロジェクトに立ち向かうときは、「チャレンジしていること自体が喜び」と、脳が感じながら取り組むことが成功の秘訣。

―茂木さんは、HAKUTOがGoogle Lunar XPRIZEで優勝するために、何が一番大切だと考えますか?

茂木:チームパフォーマンスを最大化するには「ソーシャルセンシティビティ(社会的感受性)」が必要というMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究結果があるんですが、メンバー同士で互いの気持ちを受け止め合う社会的感受性は、日本人の得意とするところですよね。HAKUTOでも、このチームワークがうまく発揮されればいいなと思っています。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)による小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトでも、何度かミッション失敗の危機があったけど、リーダーとチームメンバーの協力で乗り越えたことがありました。ハリウッド映画みたいに、派手で一人勝ちしていくタイプのリーダーは日本では生まれにくいだろうけど、みんなの気持ちを一つにまとめあげていくタイプのリーダーがHAKUTOから出たらいいですよね。

―脳科学的な観点から、こういった宇宙プロジェクトに取り組むに際に大切なことはありますか。

茂木:アメリカの心理学者、ミハイ・チクセントミハイが言う「フロー」(心理的エネルギーがいま取り組んでいる対象へすべて注がれている)の状態に入ることですね。au×HAKUTO MOON CHALLENGEでいえば、優勝賞金3000万ドルの報酬を得るための手段として取り組むのではなく、いまやっているチャレンジ自体が喜びであると感じられるときが、脳に一番良い状態だと言えます。極端なことを言えば「チャレンジに失敗してもいいや」というくらいの気持ちでやれたときのほうが良い結果になる。みんなでそういう状態を作り上げ、チャレンジそのものがお祭りみたいになれれば、すでにフローの状態にあるといえます。

茂木健一郎氏

―au×HAKUTO MOON CHALLENGEが成功すれば、社会にどんな影響が生まれそうでしょうか?

茂木:アポロ計画(1961〜1972年)が行なわれていたとき、アメリカの世論では「あんなの役に立たないから、もっと地上のために役立つことにお金を回せ」と言われていたんだけど、結局アポロ計画の技術が民間に出ていって、いろんな産業のイノベーションにつながったわけです。宇宙開発にチャレンジして、技術的な課題が解決すれば、その技術を他のことにも応用できる「トリクルダウン」(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がまわるという経済思想)が起こると考えています。

―このプロジェクトから新しい何かが生まれる?

茂木:もちろん生まれると思います。たとえば、月面探査ローバーの開発によって「新しい技術」が生まれるかもしれないし、「宇宙ベンチャー文化」が波及していくかもしれません。HAKUTOには、多くの「プロボノ」と呼ばれるボランティアメンバーが参加していますが、彼らが外に出て活躍することも考えられるでしょう。もしかすると、このウェブサイトの記事を読んだ若い世代がインスパイアされて、宇宙開発を目指すといった波及もあるかもしれません。

宇宙にチャレンジできる人、できない人の「違い」を脳科学で考える
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