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古市憲寿(社会学者)

社会学者・古市憲寿が語る「宇宙ベンチャー事情」。なぜ日本では起業家が生まれにくい?(前編)

2016.12.14

小学生のころ、図鑑で「宇宙」を知ったのをきっかけに、非日常的な宇宙開発の世界に興味を持ったという気鋭の社会学者・古市憲寿氏。2000年代の日本の若者の姿を鮮やかに切り取った著作『絶望の国の幸福な若者たち』や、テレビコメンテーターとしても注目を集めている彼は、近年「なんで宇宙なんて行くの?」という挑発的な講義を京都大学で行うなど、宇宙開発の歴史にも鋭い問題意識を投げかけている。

1960〜70年代に世界中を巻き込んだ、アポロ計画による月面着陸の興奮を知らず、不安定な社会や世界情勢のなか、宇宙に夢やロマンを求めない現代の若者たちにとって、人類初の月面探査レースGoogle Lunar XPRIZEや、宇宙ベンチャーHAKUTOはどう位置づけられるのか? SNS時代における宇宙プロジェクトの見せ方など、彼ならではの視点によるお話を伺った。

Googleが月面探査レースを主催している事実が、いまの社会情勢を反映している。

―人類初の月面探査レースGoogle Lunar XPRIZEや、それに日本から参戦するチーム「HAKUTO」について、どんな風にご覧になっていますか?

古市:主催も参加チームも、すべて民間企業というのが面白いですよね。少し前まで、月面探査のような宇宙プロジェクトは、アメリカや旧ソ連などの巨大国家にしかできませんでした。それがいまやベンチャー企業が挑戦できる時代になった。ようやく昔の人が夢見た「21世紀」にちょっと近付いたのかなと思います。

古市憲寿

―たしかに1969年にアポロ11号が人類で初めて月面に着陸し、1970年に旧ソ連、2013年に中国が無人の月面車を走らせているものの、すべて国家のプロジェクトです。

古市:月面着陸からGoogle Lunar XPRIZEまで、約半世紀が経っているわけですね。そう考えるとけっこう時間がかかったなとも思います。電車や飛行機などの移動手段、最近ではインターネットもそうですが、新しいテクノロジーが登場したとき、最初は国家主導で整備されたり、軍事目的に使われることが多い。それが徐々に民間に開放され、人々の生活がどんどん変わってきたわけです。しかし宇宙に関しては、長らく国家だけができる事業だと思われてきた。特に月面探査はその最たるものですよね。

―月面探査が、国家から民間企業へと移行していった背景には、どんな要因があると思いますか?

古市:いまでも国家として月面探査に熱心な中国のような国もありますが、現実的に考えると月に行くメリットってほとんどないわけですよね。国威発揚や国際的存在感を示すなど象徴的な意味はあっても、冷静に考えると無駄で無謀な行為です。お金もかかるし、人が何人も死ぬかも知れない。そういう事業は、国家の「ある限られた時期」しか難しくて、アメリカに関しては、その時期はすでに過ぎたと思います。

古市さんは袴田さんの著書も読了済み、とのこと

―「ある限られた時期」とは、どういう時期でしょうか?

古市:人口における若い人の比率が高くて、経済成長が右肩上がりの時期です。アメリカでいえば1960年代から2000年頃まででしょうか。特に1960年代は、アメリカと旧ソ連が冷戦中だったので、どちらが先に月に人を送り込むかということに大きな意味がありました。またアポロ計画は巨大公共事業であると同時に、「強いアメリカ」を熱望する国民の圧倒的な支持に支えられ実現したものです。

トランプ次期アメリカ大統領も、「Make America Great Again」(アメリカをもう一度偉大にしよう)を選挙戦のスローガンに掲げていましたが、そこで話し合われるのは製造業の復活などアメリカ経済の活性化であって、決して宇宙開発による国威発揚という抽象的な事業ではありません。

財政状況が厳しくなった国では、なかなか膨大なお金を宇宙開発には回せない。そんなお金があるなら社会保障や格差対策に使え、となってしまう。ロシアも2029年までにふたたび有人月面探査を目指すという報道もありますが、どこまで現実的な話かはわからない。十分にお金があり、リスクが取れる時期しか、国家は宇宙を目指せないのです。

―だからこそ、民間企業の出番でもあると。

古市:そうですね。特にGoogleのように、国家よりも力を持ちつつあるグローバル企業が月面探査レースをスポンサードするというのが、いまの社会情勢をすごく反映していると思います。「月面レースをスポンサード」というマンガなようなことができてしまうのは、さすがGoogleですよね。

―そこに日本の宇宙ベンチャーによるチームHAKUTOが参戦し、優勝候補として名前が挙がっていることについてはどう思いますか?

古市:日本も国家中心に宇宙開発を進めてきた国ですが、アメリカやロシアを超えることはできませんでした。宇宙開発予算もこれから大きく増えることはないでしょう。アメリカに比べると、まだまだ宇宙ベンチャーの存在感も薄い。そんななか、HAKUTOが月面走行車を完成させ、成功させることは、社会が宇宙ベンチャーに興味を持つ良いきっかけになると思います。

また、HAKUTOには「プロボノ」という、ボランティアメンバーが特技や経験を持ち寄ってチームに活かす仕組みがありますよね。代表の袴田さんも、昔は会社員を続けながら宇宙の仕事に関わり始めたそうですが、副業から始めて、徐々に規模を大きくして起業するやり方も、いまっぽいなと思いました。

なぜ日本では宇宙ベンチャーが生まれにくい? 21世紀最後のフロンティア「宇宙」を目指す、年の離れたアポロ世代と宇宙ベンチャー世代
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