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古市憲寿(社会学者)

社会学者・古市憲寿が語る「宇宙ベンチャー事情」。なぜ日本では起業家が生まれにくい?(後編)

2016.12.14

小学生のころ、図鑑で「宇宙」を知ったのをきっかけに、非日常的な宇宙開発の世界に興味を持ったという気鋭の社会学者・古市憲寿氏。2000年代の日本の若者の姿を鮮やかに切り取った著作『絶望の国の幸福な若者たち』(2011年)や、テレビコメンテーターとしても注目を集めている彼は、近年「なんで宇宙なんて行くの?」という挑発的な講義を京都大学で行うなど、宇宙開発の歴史にも鋭い問題意識を投げかけている。

1960〜70年代に世界中を巻き込んだ、アポロ計画による月面着陸の興奮を知らず、不安定な社会や世界情勢のなか、宇宙に夢やロマンを求めない現代の若者たちにとって、人類初の月面探査レースGoogle Lunar XPRIZEや、宇宙ベンチャーHAKUTOはどう位置づけられるのか? SNS時代における宇宙プロジェクトの見せ方など、彼ならではの視点によるお話を伺った。

アポロ11号の月面着陸から半世紀近くも経っているのに、宇宙旅行も有人火星探査も実現していないことに疑問を持ったんです。

―そもそも、古市さんが宇宙に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?

古市:小学生のころ、宇宙の図鑑を手に取ったのがきっかけでした。空気もない、光も充分に届かない、そんな宇宙に対する無謀な挑戦、非日常的性に惹かれたんです。図鑑には「20年後は誰でも宇宙に行けるようになる」と書いてあって、すっかり信じていましたね。そこから宇宙開発の歴史に興味が向かっていったんです。

古市憲寿

―一方で、2013年には京都大学のシンポジウムで「なんで宇宙なんか行くの?」という講演をされていますよね。その問題意識はどういったものだったのでしょうか?

古市:演題そのままの意味です(笑)。特に有人宇宙開発って、結局何の役に立ったんでしょう? ある時期まで、人類が宇宙へ行き、月に降り立つということはロマンだったのかも知れません。しかし、アポロ11号の月面着陸から半世紀近くも経っているのに、宇宙旅行も有人火星探査も実現していない。なのに相変わらず、宇宙に関する物語や、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や省庁の発表する文章にまで「夢」や「ロマン」という文字が躍ります。本当に宇宙はまだ、「夢」や「ロマン」たり得るんでしょうか? 宇宙にお金をかけるなら、少子化対策や社会保障の充実など、もっとするべきことがあるんじゃないかと思ってしまうんです。

―ただ、アポロ計画などの恩恵を、宇宙ベンチャーが受けている部分もあります。たとえば、起業家イーロン・マスク氏のロケットベンチャー・SpaceXには、NASAの人材や技術も集まっている。宇宙業界には、「ピークを高く、すそ野を広く」という言葉があって、未踏の領域という高い目標を目指すチャレンジがあるからこそ技術のすそ野が広がる。だから、誰かがフロンティアを目指さないと、ベンチャー産業も広がっていかないんです。ちなみにイーロン・マスク氏の火星移住計画はどうご覧になっていますか?

古市:もはや火星を目指すのは国家ではなく、起業家なんですね。歴代のアメリカ大統領たちも、有人火星探査を約束しているんですが、時期を決まって30年後あたりに設定するんです。自分や関係者たちが確実にリタイヤしている時期ですよね(笑)。火星プロジェクトは失敗続きで、先日も欧州とロシア共同開発の火星探査機スキアパレッリが着陸に失敗しました。国家主導の有人火星探査で人命が失われてしまったら、「その次」があるかわからない。アメリカにおける戦死者に対する扱いを見ても、人命はこの半世紀で確実に重くなっています。だからこそ起業家たちが、ある意味自己責任として有人火星探査に挑戦することは、いまの時代ならではのリアリティーと可能性を感じます。

―古市さんご自身は宇宙に行きたいですか?

古市:いまの安全性ではまだ行きたくないですね(笑)。本当は、木星や土星など、想像もできないほど巨大であろうガス型惑星を間近で見たり、衛星タイタンやエウロパの海のなかを見てみたいという願望はあります。でも、しばらくは危なそうなので、CGでシミュレーションされた映像をVRで見るくらいでいいかなあと思っています。

―じつはHAKUTO代表の袴田さんも、自分自身は宇宙に行きたくないそうです。「宇宙酔い」が怖いそうで(笑)。

古市:すごく現実的な意見ですよね。「飛行機嫌い」みたいに、宇宙が「好き」か「嫌い」かで、行ってもいいし、行かなくてもいい、選べる時代が来ればいいですね。

わからないことだらけの宇宙では、無謀に見えるようなチャレンジからイノベーションは起こる
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