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7kgから4kgへ、SORATOの徹底的ダイエット。軽量化を追求したエンジニアリングの挑戦

2017.10.27

開発費の7割近くを占める打ち上げ費用は、運びたい物の重量によって決まるため、月面探査機が軽ければ軽いほどコストを抑えられる。可能な資金調達の額を予測し、逆算した開発費ではじき出されたローバーの重量は4kg。この目標をクリアするため、HAKUTOのエンジニアとサポーティングカンパニーが協力してSORATOのダイエットに取り組んだ。

プロジェクト成功に向けたSORATOの超ダイエット

HAKUTOクリーンルーム内で開発されているSORATOの様子

月面探査ローバー「SORATO」は小型軽量であることを特に重視して開発を進めている。その理由は重量が打ち上げ費用に直接影響するからだ。民間の力でミッションを達成することが条件のGoogle Lunar XPRIZEでは、資金調達もプロジェクト成功の鍵であり、コスト削減はその生命線だ。

調達可能な資金から打ち上げ費用を逆算すると、ローバーの重量は4kgに収めたい。──2015年当時ローバーは7kgあったので、40%減となる3kgものダイエットが必要だった。

基本に忠実でロジカルな設計思想から、柔軟な発想が生まれる

インタビューを受けるHAKUTOの構造担当古友さん

重量には構造設計が大きく関わる。軽量化のために多くの工夫をしてきた、HAKUTO構造担当の古友さんは次のように話す。

「当時、経営陣から出された予算から打ち上げ費用と開発費を計算すると、なんとか実現可能なラインでした」

古友さんは、2012年からHAKUTOにプロボノとして参加して、2015年からはフルタイムで月面探査機の開発に携わってきた。幼少期からミニカーを改造し、学生のときはバイクをいじり、就職してからは自動車や宇宙ステーション関連のシステム開発をしてきた生粋のエンジニアだ。

「最初に、設計要求となる目標をきちんと決めて、それをきちんと理解する。選択できる材料、加工方法などをすべて洗い出し、実際に物を作って形にする。形にしたものが最初に決めた目標をクリアしているかを、試験をして確認する――もの作りはこの繰り返しです。SORATOの場合は、重量に特化して徹底的に行いました」

基本に忠実な古友さんの設計思想は、ロジカルだからこそ、従来のやり方にとらわれないもの作りができるのかも知れない。これまで数々の柔軟な発想で、SORATOのダイエットを牽引してきた。

半分以下の重さのギアを可能にしたのは、中空にできる加工技術

[右奥]初期の鉄製ギア、[左奥]チタン製中空ギア(試作品)、[手前]チタン製中空ギア(完成品)

SORATO軽量化の代表的な例はサスペンションのギアだ。初期は鉄製で17gだったものが、最終的には6gのチタン製の中空(ちゅうくう)ギアとなり、-11gという驚くべき軽量化を達成した。

[左]初期の鉄製ギア(17g)と、[右]チタン製中空ギア(6g)

実はチタン製中空ギアを開発する前に、アルミニウム製のギアも作っていた。通常、強い力を受けるギアは鉄など固いものを用いるが、古友さんは型破りのアルミニウム製にこだわり、重量を半分にすることに成功した。しかし、軽量化の探求はここでは終わらない。

「ギアの重さが鉄製のものから半分になったのに、それでヨシとならないのがこのプロジェクトの厳しいところです(笑)。さらなる軽量化を模索する中で、ヤマウチマテックスさんから、チタンパウダーを焼結できる3Dプリンターがあると聞き、ギアを中空にするというアイデアを思いつきました」

中空とはその名の通りギアの内側を空洞にすることで、3Dプリンターならではの加工形状である。この部品を徹底的に軽量化、最適化したのは、HAKUTOの構造担当の上野さんだ。

「大きな力が掛かるので、精度が高くないと動作せずに壊れてしまうため、必要最低限の強度を持たせた上で、厚みや歯の数など、オーバースペックなものはすべて省きました」

しかし、徹底的に軽量設計されたギアは、超高精度の加工が必要になった。内部に1000分の数ミリという精度でベアリングを入れるのだが、月面の温度は極端に変わるため素材の膨張も考慮しなければならない。

古友さんが当時の様子を振り返る。

「ヤマウチマテックスさんに図面を送ると、かなり難しいですね…と言われたのですが、一生懸命に説明してお願いして、ものすごく頑張っていただき、設計どおりの形にしていただきました。機械を作動させて簡単にできるようなパーツではなく、職人的技術を持つ人が高度な機械を操作してくれるから、1000分の1ミリもの精度が可能になりました」

最終的に、サスペンションギアまわりで約40%の軽量化に成功した。

軽さと強度を備えたボディを可能にするのは、CFRPのチューニング技術

SORATOのボディはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)という素材。旅客機の機体や翼に使われるなど軽さと強度を兼ね備え、厚みや積層方法を変えることで必要なところに強度を足し、不要なところは強度を減らせることが特徴だ。

「徹底的に軽量化するためには、通常よりももっと細かいチューニングができるCFRPが必要だったのですが、東レカーボンマジックさんが繊維業者に相談してくれて、特別なCFRPを作ってくれました」

このような柔軟な対応が可能なメーカーは多くはない。「4週間後にインドに持って行かなければならない時には、納期を半分にして対応してもらったこともあります。一緒に頑張ってくださっていると感じています」と古友さんは語る。

必要な強度は保ちながら、SORATOを構成するボディとして約40%の軽量化に成功したが、現在もCFRPの積層方法を選考中だ。

CFRPの素材。それぞれ積層方法が違うので、強度や質量などが異なる。いくつかのパターンを検討し、性能試験を経てSORATOに採用する積層方法を決定する

ホイール4つで、約1億円分のコスト削減に成功

「軽量化に最も効果があったのはホイールでした」と古友さん。2015年のプリフライトモデル1(PFM1)では、ホイールはウルテムというプラスチック素材を使って3Dプリンターで製作しており、厚く重いものだった。

射出成型という技術を採用することで、さらに薄く、温度変化にも強いホイールとなり、1つあたり250gも軽くできた。ホイールは4つあるので、約1kgの軽量化となり、金額にして約1億円のコスト削減に成功した。

現在も、グラウザー(羽根の部分)の厚みを薄くして、さらなる軽量化を検討している。

右がウルテム樹脂の射出成型という技術によって1つ146gまで軽量化したホイール。左のPFM1と比べて半分以下の軽量化に成功した

徹底的に軽量化にこだわった月面探査ローバーができ上がる

柔軟なアイデアと、それを形にできる日本の技術力のおかげで、月面探査ローバー「SORATO」のダイエットは成功することができた。

民間初の月面探査レースGoogle Lunar XPRIZE優勝に向けて、HAKUTOとサポーティングカンパニーの力をあわせ、まさに総力戦となった今回のプロジェクト。SORATOが月を走る日は、すぐそこまでに迫っている。

PROFILE

間野晶子 / AKIKO MANO

海外や日本でリサーチャーとして活躍後、数値解析エンジニアとして活躍中。グローバルな経験を活かしライターとしてサイエンスコラムやWEBニュースなどで記事を執筆。HAKUTOのプロボノメンバーでSNSやメールマガジン等のコンテンツの執筆、編集などを手掛ける。

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