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Google Lunar XPRIZEがもたらした意義と今後の宇宙開発

2018.03.28

3月末でのレース終了が決定したGoogle Lunar XPRIZEは、期限までにミッションを達成するチームがないまま「勝者なし」としてレースが終了する見通しとなった。そんな中、XPRIZE財団によって開催された史上初の民間組織による月面探査レースがもたらした意義と、今後の宇宙産業に与えた影響を、宇宙ビジネスの第一人者であるA.T. カーニー プリンシパルの石田真康氏に語ってもらった。

10年にわたるGoogle Lunar XPRIZEの挑戦に区切り

2018年1月米XPRIZE財団は10年以上にわたり続いてきた月面ロボット探査レースGoogle Lunar XPRIZEの終了を宣言した。IT大手のGoogleがスポンサーをしたこと、賞金総額が3000万ドルと巨額であることもあり、世界的な注目を集めてきたGoogle Lunar XPRIZEだがレースの期限が3月末に迫った中での発表であった。

Google Lunar XPRIZEは2007年に始まった世界初の民間による月面無人着陸を目指す賞金コンテストだ。民間(90%以上民間の資金であること)開発の無人着陸機で月面に軟着陸し、月面探査ローバーにより500m以上を走破、動画・画像を地球に送信するというミッションをクリアした上位チームに賞金総額3000万ドルが支払われる。

当初は32チームが参加、期限は2014年12月31日となっていたが、各チームの開発状況も踏まえて、計5回ほど延期されて2018年3月31日をミッションの最終期限としていた。2017年以降ファイナリストに残ったのは日本から参戦するHAKUTOを含めた5チームに絞られていたが、今年1月23日にXPRIZE財団から「期限までに月面に到達できるチームがない」という結論に至り、現状の形でのコンテストは終了が発表された格好だ。

探査機の打ち上げ契約を確定した5チームがファイナリストに認定された。左からHAKUTO(日本)、SpaceIL(イスラエル)、Moon Express(米国)、Synergy Moon(国際)、TeamIndus(インド)

[関連リンク]XPRIZE財団公式発表全文(和訳)は次ページ

XPRIZEとは?「賞金コンテストを通じて生態系を形成する」

XPRIZE財団はこのようなコンテストを宇宙以外の分野も含めて多数主催している。その着想の原点は1927年のチャールズ・リンドバーグによる大西洋単独無着陸横断だ。実は、あれは賞金コンテストであり、彼の成功はその後の航空産業の発展に大きく貢献したと言われている。同財団は自らをイノベーションエンジンとうたっており、賞金コンテストというツールを用いて、未開拓分野における技術、顧客、投資の生態系を形成することが狙いだ。

宇宙分野では前例があり、2004年に有人弾道宇宙飛行を対象としたコンテスト「Ansari X Prize」を開催し、有人宇宙船「SpaceShipOne」が優勝した。SpaceShipOneの開発には、優勝賞金1000万ドルをはるかに上回る資金が投資されたと言われているが、その後、SpaceShipOneから技術提供を受けて、リチャード・ブランソン氏が宇宙旅行サービス会社を設立、宇宙旅行事業の立ち上げと予約を進めるなど、コンテストがきっかけとなり新しい産業の息吹が芽生えつつある。

2007年に今回の月面ロボット探査レースGoogle Lunar XPRIZEが立ち上がった際、主催するXPRIZE財団は将来の惑星探査に求められる着陸系、走行系、画像処理系の基礎技術構築が狙いであると語っており、また今回の月面ロボット探査レースが切り拓く市場規模は、10年後に最大2700億円、25年後には最大1兆円になると予測していた。今回改めてGoogle Lunar XPRIZEの意義と宇宙ビジネスに与えたインパクトを考えてみたい。

意義①:宇宙ベンチャー企業の誕生、XPRIZE終了後も月を目指す

一つ目の意義は、Google Lunar XPRIZEへの参戦がきっかけとなり多くのベンチャー企業が生まれ、そのうちのいくつかは、産みの親でもあるレースそのものが終了することになっても、さらに月面にむけた動きを加速させていることだ。

例えば米Astrobotic Technologyは、その出身母体でもあるカーネギーメロン大学との共同開発を通してこれまでに月面着陸船およびローバーの開発を進めてきており、将来的に「月面までの輸送サービス」の実現を目指している。

同社は2017年にファイナリストが選ばれる段階でXPRIZEを離脱したが、今年3月にはNASAとの間に惑星探査に用いる小型ローバープラットフォーム「CubeRover」の開発を受託しており、開発中の月面着陸船「Peregrine」と「CubeRover」を2020年に月面に打ち上げることを計画している。

独Part-Time Scientistsも2016年にGoogle Lunar XPRIZEの中間賞を受賞した有力チームであり、2017年にXPRIZEから離脱することとなったが、その後も引き続き自動車メーカーや通信会社から支援を受けて、月面着陸船「ALINA」とローバーを開発している。

同社では2019年にSpaceXのFalcon 9ロケットによる打ち上げを計画しているが、今年2月には同ミッションでの使用を念頭において、通信会社とともに月面における機器間通信やデータ伝送のための4G通信ネットワークの開発協力を発表して注目を集めた。

また、日本から唯一参戦して注目を集めてきたHAKUTOを運営するispaceは、昨年12月13日に101.5億円の資金調達を発表(※)、シリーズAでは国内過去最高額の調達、世界でも類を見ない調達額ということで高い注目が集まった。

  • ※ 2018年2月には、東北大ベンチャーパートナーズから追加投資2億円を調達してシリーズA合計103.5億円となった。

同社は「Expand our planet. Expand our future.」とビジョンを掲げ、将来的に人類の生存圏を宇宙空間まで広げることを目指している。当面は商業月輸送サービスを目指し、2019年以降に独自開発の月着陸船による月周回および月着陸のミッションを計画だ。このようにXPRIZEを契機に誕生したベンチャー企業は、XPRIZEを超えた事業計画を持ち活動を続けているのだ。

意義②:深宇宙探査、宇宙資源開発に関する世界的な動きの加速

二つ目の意義は、個々の企業の動きを超えて、ここ数年の間に月、火星、さらにはより遠くを目指す深宇宙探査や宇宙資源開発に対する注目が強くなり、法整備、資金提供、技術開発などが進み始めたことだ。こうした背景にはNASAやSpaceXなどの動向が大きな影響を与えてはいるが、Google Lunar XPRIZEもそうした流れが生まれる一助となったのではないかと思う。

例えば、今年2月に発表された米連邦政府の予算教書ではNASA予算の要求額は総額199億ドルとなったが、全体の半分以上となる105億ドルが探査に割り振られた。目玉は2022年から始まる月周回軌道上に居住基地建設プロジェクト「Lunar Orbital Platform-Gateway」や23年に計画される「EM-2」と呼ばれる有人月近傍ミッションだ。更に月での大規模ミッションのための無人探査技術への投資や、そのための民間企業との連携なども掲げられた。

また、月、小惑星には、水、プラチナのようなレアアース、アルミニウムなどの金属類があることがわかっているが、より遠い宇宙を目指すにあたり、こうした宇宙資源の利活用に注目が集まっている。そうした中、2015年には当時のオバマ大統領が世界で初めて国内法という形で、米国市民・企業による商業宇宙資源開発を認めたことに衝撃が走った。

同法の成立には、Google Lunar XPRIZE参戦チームの米Moon Expressのボブ・リチャードCEOも働きかけを行ったことを公言している。更に呼応する形で欧州のルクセンブルクも国内法の整備を行うなど、商業宇宙資源開発の流れも段々と強くなりつつある。このように産業全体としての月、火星、さらにはより遠くを目指す深宇宙探査や宇宙資源開発などの流れが生まれつつあることは大きな意義であると言えるのではないか。

意義③:新たな企業・個人の宇宙ビジネスへの参加

三つめの意義は、従来宇宙とは関係の薄かった多くの企業や個人が参加するようになったことである。先のAstrobotic Technologyは輸送物流会社が支援をしており、Part-time Scientistsは自動車メーカーや通信会社が支援、ispaceには東京放送ホールディングス、コニカミノルタ、清水建設、スズキ、電通、KDDI、日本航空、凸版印刷など多くの日系事業会社が出資を行った。いずれの企業も従来国を中心とした宇宙開発では関係のなかった業界の企業ばかりだ。

こうした企業が参加する背景にあるのは民間宇宙ビジネスに対する期待だ。従来は官需主体だったため大手航空宇宙企業など限られた企業の市場であったが、今後は民間主導で様々なアイデアが出てきて市場拡大も期待される。別の理由は自社保有アセットの適用だ。例えば、これからの宇宙探査にはロボティクス、人工知能、高度な通信技術などの活用も期待されており、こうした技術を保有している企業にとっても参加する意味合いがある。

企業だけではなく、多様な個人もGoogle Lunar XPRIZEをきっかけに参加することになった。国主導の宇宙開発では限られた人たちにしかその門戸は開かれていなかったが、民間による月面ロボット探査レースという旗印を立てることで、起業家、投資家、エンジニア、マーケター、デザイナーなど多種多様な人々が宇宙ビジネスに目を向けるようになった。

HAKUTOのプロボノチームは日本でも有名だが、XPRIZE財団も「教育プログラムを通じて、世界中の多くの若い人たちに探究心やSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics = 科学・技術・工学・数学)分野への興味を喚起してきました」と明言している。このようにGoogle Lunar XPRIZEは様々な企業や個人が宇宙ビジネスに携わるきっかけになったと言えるのではないか。

左から「SpaceIL」「Moon Express」「TeamIndus」「HAKUTO」の各チームが開発した月面探査ローバー

新たな産業の息吹

10年前、民間企業が月を目指すと聞いて信じた人がいただろうか。今回Google Lunar XPRIZEは勝者なき終了をむかえることになったが、その10年にわたる取り組みは民間宇宙ビジネスに確かな影響を与え、新たな産業の息吹とともに、将来を担う新たなプレイヤーの誕生を促したと言える。

XPRIZEに参戦していたチームが作り上げていく新しい宇宙ビジネスには今後も要注目だ。またXPRIZE財団自身も今後新たなスポンサーを探す、もしくは賞金なしのコンテストとして参加チームをバックアップし、Lunar XPRIZEを継続することも模索していると公表しており、その動向を注視していきたい。

PROFILE

石田真康 / MASAYASU ISHIDA

A.T. カーニー株式会社 プリンシパル/一般社団法人 SPACETIDE 代表理事。ハイテク・IT業界、自動車業界、宇宙業界などを中心に、全社戦略、事業戦略、R&D戦略などに関する経営コンサルティングを担当。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスの運営を手掛ける一般社団法人SPACETIDE 共同創業者 兼 代表理事。内閣府宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会および宇宙産業振興小委員会委員。著書に「宇宙ビジネス入門 Newspace革命の全貌」(日経BP社)

次ページにXPRIZE財団による公式発表の和訳を掲載
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