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au × HAKUTO REPORT

HAKUTO×KDDIが得たものを未来へつなぐ

2018.03.28

au×HAKUTO MOON CHALLENGEの集大成である、月面探査ローバー「SORATO」の最終フィールドテストが3月26日から鳥取砂丘で行われた。ミッションの成否を分ける「生命線」とも言えるのが通信技術だ。重要ミッションに挑んだKDDI総合研究所の研究員に開発で得られた知見、そして未来について伺った。

Google Lunar XPRIZE の終了と最終フィールドテストの意味

史上初の民間月面探査レースGoogle Lunar XPRIZEは、勝者なく3月31日に幕を閉じる。2007年9月にレースアナウンスされた後、エントリーチームは30数チームに上ったが、ファイナリストに残ったのは5チーム。HAKUTOは優勝候補の筆頭と評されていた。

資金難、パートナー変更など幾多の困難を乗り越えHAKUTOは開発を進め、2017年末にはロケット打ち上げ地のインドに、月面探査ローバー「SORATO」を空輸した。計画通りなら、SORATOは今頃インドのロケットで打ち上げられ、月に到着しているはずだった。ところがHAKUTOの相乗りパートナーであるTeamIndus(インド)とロケット側との調整が難航、期限までに打ち上げを間に合わせることは叶わなかった。打ち上げを期限内に実現できる他チームも存在せず、レースを主催するXPRIZE財団は2018年3月31日の期限をもって、予定通りレースを終了することを発表した。

だが月への挑戦は、まだその途上にある。HAKUTO代表である袴田武史氏は、これまで応援して下さったたくさんの方々に心からの感謝を伝えつつ、「なるべく早く、確実な方法で月を目指す。我々は何としてでも月に行く」と宣言した。

鳥取砂丘で行われたSORATOのフィールドテストが、その決意の証拠と言っていいだろう。インドに輸送したSORATOと同型のフライトモデルを使って、月面に見立てた砂丘を走らせ、画像を撮影、模擬地上局に送信させる。この試験によってSORATOの開発が完了し、いつでもミッションができる状態になる。

鳥取砂丘での最終フィールド試験の様子

未来を見据えた鳥取砂丘での最終フィールドテスト

このテストは当初、1月下旬に予定されていた。レースの条件であった、地上からの遠隔操作で500mを走行できること、SORATOが撮影した画像を送信できることなどを確認するのが目的だ。具体的な試験内容は下記の4つ。

① 模擬地上局からSORATOへコマンド送信。走行やカメラ撮影の指示を行う。
② SORATOの各種センサーや機器からのテレメトリ(信号)受信。
③ 画像の撮影。
④ SORATOから模擬地上局へ、撮影画像などの送受信。

テストは問題無く終了した。SORATOのハードウェアの開発は既に終了していたが、ソフトウェア開発もレース期限内に終了できる実力がHAKUTOにあることを、このテストで改めて証明したと考えられる。「走行、撮影、画像送信技術はSORATOはもちろん、将来どんなロボットを月や深宇宙で動かすにも必要です。次世代の宇宙機の開発に向けて、それらの知見を蓄える実験でもあります」と、HAKUTO広報、秋元衆平氏が話すとおり、このテストは開発完了の節目でもあり、未来を見据えた技術開発の重要なマイルストーンでもある。

通信のプロ集団──KDDIの技術協力

KDDI総合研究所の地下にある電波無響室でSORATOの試験も行われた

人がいない月面でSORATOを走らせる時、命綱になるのは「通信」だ。SORATOは地上局からの遠隔操縦であり、操縦の拠り所になるのがSORATOから送られてくる月面の画像。オペレーターはその画像を見ながら次はどの方向に、何m進めと指示を出す。もし通信が途切れれば、SORATOは走行不能となってしまう。だからこそ、「どんな状況でも絶対に途切れない月面での通信網」、「確実な映像伝送」を実現する必要があった。この困難なミッションに挑んだプロ集団が、KDDI総合研究所の7人の研究員からなる特別開発チームだ。

KDDIがHAKUTOプロジェクトのオフィシャルパートナー契約を結んだのは2016年3月。資金面でのサポートと共に、KDDIがこれまで培ってきた通信技術や知見を最大限活用し、ローバーの通信システムの開発に技術支援することになった。この技術面での協力が非常に大きな意味を持っていたと秋元氏は指摘する。

月面レースでは月面到着後、8分間のHD動画、360度のパノラマ画像を送ること等が「ミッション」として義務付けられていた。「でもHAKUTOには通信を専門的に担当できる人間はおらず、ソフトウェアのエンジニアが通信も担当していたのです。通信技術について専門的な知識、技術、経験を持たれているKDDIさんに開発に関わって頂いたことで信頼性が劇的に上がり、絶対的な安心感を得ることができました。どんな状況になっても通信ができるということは、すごく難しいことなんだと改めて感じましたね」(秋元氏)。

ではKDDIはどんな技術協力をしたのだろう。具体的には二つ。一つは、月面到着後のSORATOとランダー(月面着陸機)間の無線通信。もう一つは、SORATOが撮影した映像伝送の技術。どんな点で苦労したのか、開発で何を得て今後にどう生かすのか、それぞれの分野を率いたリーダーに聞いた。

KDDI総合研究所リーダーに聞く──月で絶対に途切れない通信環境を作る難しさ

2017年8月の鳥取砂丘試験での会見でプレス関係者に説明をするKDDI総合研究所の岸氏

お話いただいたのは、無線通信のリーダーを担当された岸洋司次世代アクセスネットワーク部門長と、画像伝送のリーダーを担当された柳原広昌メディアICT部門長。開発でご苦労された点について伺うと、まず岸氏が「一番難しかった点は、月の環境がどうなっているか、まったくわからない状況の中で作っていく点」を挙げた。

月の表面はレゴリスというガラス成分を含む特殊な砂で覆われ、クレーターと呼ばれる窪地や、大小の岩が点在する。そんな特殊な環境で通信を行う。地上の携帯電話に例えれば、ランダーが基地局で、移動するSORATOが携帯電話だと考えればいいだろう。

岸氏が懸念点として挙げたのはアンテナの高さだった。「地上の携帯電話サービスの場合、基地局のアンテナは比較的高いところにあります。また人が携帯電話を使うときは頭の高さぐらいで使うことが多い。一方、月面で基地局の代わりとなるランダーの高さは高くないし、SORATOは地面に近いところにアンテナがあって、その間で通信をしないといけない。レゴリスや様々な障害物がある地面に近く、電波が地面から反射することなどで非常に強い影響を受けるのではないかと想定されたのです」

さらに、通信を絶対に途切れさせてはならないという条件も岸氏を悩ませた。「SORATOを月に送り込んだ後は何も手を打てない。途切れない準備をすべて事前にやっておかなければならなかった」。岸氏らはNASAの論文でレゴリスが電波に与える影響を調べたり、砂丘でのフィールド試験で、クレーターに見立てた穴を掘り電波がどれくらい弱くなるかを確かめたり、実験や研究を重ねていった。

一方、SORATOが撮影した画像や映像を圧縮して送信し、地上で受信後に復元する画像伝送を担当した柳原氏がまず直面したのは「(専用品でなく)民生品を使わざるを得なかったこと」。宇宙に運ぶものは徹底的に小型軽量化され、電力にも限りがある。映像を圧縮するためのチップは、既に民生品を使うことが決まっていた。その上でどこまで最適化できるのか。さらに、映像を送信するネットワークの状態が、「未知との遭遇だった」(柳原氏)。帯域は狭いし、通信状況が不安定になり圧縮データが欠落したり、画像が乱れたりすることも予想される。どこまで想定すればいいのか、きりがない。

「伝送エラーがあっても、なんとか月面の絵が見られるように、月面の特性を考えました。例えば月面は白く、宇宙空間は黒い。場合によってはカラーの地球が見える。地上でSORATOを操縦する人が見たいのは月面。ふつう画像は上から伝送していきますが、上の方が真っ黒(=宇宙空間)だったら、下から送れば月面の絵は少なくとも伝送できる。通常はあまりやらないことも、新たに取り入れました」

月からの画像が途切れればSORATOがクレーターに落ちたり横転したりする可能性もある。「たとえ伝送中に画面が全部落ちたとしても、過去の画面から予測し復元するなどソフトウェアの工夫で、とにかく画像が途切れないように最大限の気を遣いました」(柳原氏)

ランダー変更による衝撃的な影響をどう乗り越えたのか?
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