打ち上げまで半年を切り、プロジェクトもいよいよ大詰め。ローバーの開発はすでにほぼ完了しており、年末の打ち上げに向け、着々と作業が進んでいる。本記事では、これまでの流れを整理しつつ、これからのスケジュールについても詳しく見ていくことにしたい。HAKUTOで広報を担当している秋元衆平氏に話を伺った。

HAKUTOとGoogle Lunar XPRIZEをめぐるこれまでのあらすじ

まずは、月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」の開始から、これまでのHAKUTOおよび、HAKUTOのローバー(月面探査機)開発の歴史をおさらいしておこう。

2007.09 Google Lunar XPRIZE開始

世界初の民間による月面着陸を目指すコンテストGoogle Lunar XPRIZEが開始された。
優勝賞金は2,000万ドルとなる。

2008.04 White Label Space(WLS)チームエントリー

White Label Space(WLS)はHAKUTOの前身となるオランダのチーム。アンドリュー・バートン博士らが中心となって設立。
彼はESA(欧州宇宙機関)で経験を積んだエンジニアで、日本で研究していたこともある。

2009.08 袴田氏がWhite Label Space関係者と出会う

当時、外資系経営コンサルティングファームに勤務していた袴田武史氏に対し、WLSが参加を打診。

2010.01 White Label Spaceが東京大学でセミナーを開催

袴田氏らが、WLSの日本でのセミナー開催のサポートをする。後述する東北大学の吉田和哉教授にも参加依頼。
結果的にこのイベント開催が、袴田氏らに日本での活動を決意させるきっかけとなる。

2010.09 White Label Space Japan合同会社設立

WLSの日本での活動拠点として設立し、オランダ側がランダー開発、日本側がローバー開発をする日欧混成チームになった。
ローバー開発を主導するのは、東北大学の吉田和哉教授。
吉田教授は、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」の開発にも関わったベテランでローバーの開発経験も豊富。

2011.08  PM1(プロトタイプモデル1)完成

重量10kgの4輪型ローバー試作機。ランダー内でコンパクトに格納するため、変形する機構を備えていた。
上部には、特殊なミラーを使って周囲360°を撮影可能な全方位カメラも搭載。

2012.04  PM2(プロトタイプモデル2)完成

PM1を改良したもの。伊豆大島(東京都)の火山灰地帯にて、細かい砂の上での走行性能を検証した。

2013.01 欧州側が離脱、チーム権が日本へ移る

資金難から欧州側がランダーの開発を断念。プロジェクト存続の危機に立たされるが、日本側はチーム権を引き取り、他チームのランダーへの相乗りの道を探ることになった。

2013.04  PM3(プロトタイプモデル3)完成

より小さい2輪型ローバーの試作機。開発資金は、クラウドファンディングを活用して広く一般から集められた。

2013.07 チーム名がHAKUTOに変更

日本人が親しみやすいよう、チーム名を変更。新名称のHAKUTOは「白兎」に由来しており、月のウサギをイメージした。
またこれに先駆け、同年5月には、WLS Japanを株式会社ispaceに組織変更した。

2013.12  EM(エンジニアリングモデル)完成

EMは実機を想定して開発する試験機。4輪型と2輪型の2台のローバーをテザー(細いロープ)で
繋ぐデュアルローバーシステムのコンセプトを試した。
テザーを伸ばすことで、月面の縦穴内にローバーを降ろして調査することが可能に。

2014.08  PFM1(プリフライトモデル1)完成

PFMとは実機の前の最終段階の試験機のこと。
ボディはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製にして、4輪型は8kgに、2輪型は2kgに軽量化した。
また車輪には、強度が高くて熱にも強いウルテムという樹脂素材を採用している。

2014.12 レース期限延長

Google Lunar XPRIZEが、レース期限を2015年末から2016年末に延長する。

2015.01 中間賞(Milestone Prize)受賞

中間賞は、着陸技術、走行技術、撮影技術の3つの部門で表彰され、5チームが受賞。
HAKUTOは走行技術で受賞し賞金50万ドルを獲得。

2015.02 Astroboticへの相乗りを発表

相乗り先が正式に決定。米国のAstroboticチームのランダーに乗り、スペースX社のFalcon 9ロケットで打ち上げられることに。
月面の「死の湖」で見つかった縦穴の近くに着陸する予定で、世界初の縦穴探査も狙う。

2015.08  PFM2(プリフライトモデル2)完成

さらなる小型軽量化を図った機体。全方位カメラは廃止され、前後左右の4方向にそれぞれ小型カメラを搭載した。
重量は7kg。またデュアルローバーシステムは中止し、4輪型の開発にリソースを集中。

2015.10 レース期限延長

Google Lunar XPRIZEが、レース期限を2016年末から2017年末に延長する。

2015.10  PFM3(プリフライトモデル3)完成

熱収支の検討結果を反映し、銀テフロンコーティングを施した。
ボディや車輪が銀色になっているのはそのためだ。太陽光を反射し、熱の流入を抑えると同時に、内部からの発熱を赤外線として放出する仕組み。

2015.10 チームサミットが東京で開催。

Google Lunar XPRIZE参加チームが集まり、毎年1回だけ開催される全チームによるイベント「チームサミット」が日本・東京で開催。
毎年開催国を変えて行われるチームサミットが初めて国内で行われたことで、日本でも民間宇宙ビジネスが注目されるきっかけとなった。

2016.03 KDDIがオフィシャルパートナーに

KDDIは50年以上前、日米間の衛星テレビ中継を初めて実現した。それに続く新たなチャレンジとしてHAKUTOをサポートすることに。
資金を提供するだけでなく、通信技術で強力にバックアップする。

2016.08  FM(フライトモデル)デザイン発表

実際に月面に行くことになるのがFMだ。デザインのコンセプトは、「コストとパフォーマンスの最適解」。
従来のボディは曲面を多用していたが、平面的なデザインに一新された。

2016.09〜 FM(フライトモデル)開発中

FMでは、ボディのCFRP化をさらに進め、重量は4kgまで軽くなった。
従来、全重量の30%をアルミが占めていたのに対し、FMではこれが5%にまで低下している。
そのほか、電子機器を高温から守るために、内部のレイアウトも大幅に変更されている。

2016.12 相乗り先をTeamIndusへと変更

AstroboticチームがGoogle Lunar XPRIZEから撤退したことで、相乗り計画は再び白紙になってしまう。
新たな相乗り先を探し、合意に至ったのがインドのTeamIndus。ロケットはPSLVで、インド国内の射場から打ち上げられることになった。

2017.01 ファイナリスト5チームが決定

実際にロケットの打ち上げ契約まで漕ぎ着けたチームとして、5チームがファイナリストに認定された。
SpaceIL(イスラエル)、Moon Express(米国)、Synergy Moon(国際)、TeamIndus(インド)、そしてHAKUTO(日本)だ。

2017.01 レース期限延長

Google Lunar XPRIZEが、2017年末のレース期限を打ち上げ期限に変更。打ち上げさえ2017年内に行われれば、月面走行は年を越しても良いことになった。

2017.02 ローバー名をSORATOに決定

ローバーの命名コンテストを開催。一般の方から37,000通を超える応募があり、その中から「SORATO」という名前が選ばれた。
「宙の兎」や「宙と」などの意味が込められている。

2017.11.08 レース期間再延長

Google Lunar XPRIZEは、ミッションの期限を2017年末から2018年3月31日までに延長したことを発表しました。さらに、月面探査に関する追加の賞金設定も発表されました。
※2017年11月8日 編集追記

Category
Tags

Comments are closed