岡田武史×的川泰宣

元日本代表監督・岡田武史×JAXA名誉教授・的川泰宣「人は、夢を追う仕事を応援したくなる」(前編)

2016.10.18

岡田武史

1956年生まれ。大阪府立天王寺高等学校、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。引退後は、クラブチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。その後、Jリーグ監督を経て、2007年から再び日本代表監督を務め、2010年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。2014年11月、四国リーグFC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、「地方創生」に情熱を注いでいる。2016年JFA副会長就任。

的川泰宣

1942年生まれ。広島県出身。東京大学大学院博士課程修了、工学博士。宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授、日本学術会議連携会員、国際宇宙教育会議日本代表。2005年には、JAXA宇宙教育センターを設立し、初代センター長に。「宇宙教育の父」とも呼ばれる。日本最初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げ(1970年)から宇宙科学の現場で常に中心的な活躍をし、小惑星探査機「はやぶさ」ミッションでは現場と国内外の交渉・広報を一手に担って、中心的な役割を果たした。

元サッカー日本代表監督で、現在は四国サッカーリーグに所属するFC今治のオーナーであり、日本サッカー協会の副会長でもある岡田武史と、JAXA名誉教授であり、小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトで中心的な役割を果たした的川泰宣。「サッカー」と「宇宙」、一見つながりがなさそうな世界だが、「誰も成し遂げたことのないことに挑戦する」というチームスピリットは、サッカー日本代表チームも、「はやぶさ」プロジェクトも、そしてHAKUTOも同様だと言えよう。チーム作りや理想のリーダー像、若い世代に期待することなど、二人に幅広く話を聞いた。

2010年は、『サッカー世界大会』と小惑星探査機「はやぶさ」の年だった

―サッカーと宇宙、まったく関わりのなさそうなお二人ですが、どのようにお知り合いになられたのでしょうか?

岡田:ぼくは学生時代から環境問題に興味があったのですが、2005年頃から自然体験プログラムのインストラクターとして、地球46億年の歴史を教えることになったんです。そのとき、宇宙についてちゃんと勉強したいと思ったので、的川先生とお付き合いのあった友人に頼んで、紹介してもらいました。

元サッカー日本代表監督・岡田武史氏

的川:私は、広島大学付属高校という、サッカーが非常に強い学校に通っていたので、昔からサッカーが好きだったんです。いまおっしゃられた共通の友人から岡田さんの話は伺っていたので、いつかお会いしたいと思っていました。そうしたら、「宇宙」っていう赤い糸があったんですね(笑)。

―お二人のエピソードで言うと、2010年に南アフリカで開催されたサッカー世界大会の日本×カメルーン戦と、小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰還が1日違いだったんですよね。

岡田:じつは当時、「はやぶさ」のニュースはまったく知らなかったんですよ。というのは、テレビや新聞がああだこうだ言ってるのを見ても役に立たないし、頭に来るだけだから、代表監督になった瞬間からニュースは一切見ていなかった(笑)。だから、「はやぶさ」が地球に帰ってきたのも、現地で記者に教えてもらったんです。

的川:日本×カメルーン戦の前夜に「はやぶさ」が帰ってきたんですが、テレビがサッカーの世界大会ばかりで、「はやぶさ」の地球帰還を生中継しなかったので、ものすごい数のクレームがテレビ局に殺到したそうです。「はやぶさ」には、88万人の署名が搭載されていましたからね。それで、翌朝から一気に報道され始めて。

JAXA名誉教授・的川泰宣氏

岡田:「はやぶさ」の署名、ぼくも書かせてもらったんですよ。

的川:じつは私、あの署名キャンペーンの発案者だったのに、自分の名前を書くのを忘れちゃったんです。はやぶさを打ち上げた後に気がついて、「あ、もう行っちゃった……」って(笑)。

強いチーム作りのためのキーワード「生物的組織」とは?

―民間初の月面探査レースに挑戦するHAKUTOもそうですが、宇宙プロジェクトは未踏の挑戦をするケースが多いため、チームワークやチャレンジ精神が重要になります。そのあたりはサッカー日本代表でのサッカー世界大会への挑戦にも重なるところがあるのではないでしょうか?

岡田:「はやぶさ」の経緯を知ったのは南アフリカのサッカー世界大会が終わってからですが、チーム作りに関して「サッカーと同じ発想だな」と思う部分がありました。生物学者の福岡伸一さんに教わったのですが、人間の古い細胞が死んで、新しい細胞が生まれるとき、脳が何も命令していないのに、細胞同士がコミュニケーションを取り合って、また同じ人間の形を作るそうなんです。ぼくはこの原理をチーム作りに取り入れて、「生物的組織」と呼んでいます。つまり、監督がいちいち言わなくても、選手一人ひとりが自ら考えて動けるチームであることが重要で、それを「はやぶさ」のチームは実践していた。だって、「はやぶさ」のエンジンを開発した人が、仕様書になかった回路を勝手に仕込んでいなかったら、二度と地球に戻って来られなかったわけですよね?

的川:イオンエンジンの開発を担当した國中均くんですね。「はやぶさは、エンジントラブルが原因で、おそらく地球には戻ってこれません」って、半ばあきらめの記者会見までやったんですけど、その後、管制室に戻ったら、國中くんが万が一に備えてこっそり仕込んだ回路のおかげで、何とかなりそうだってわかった。厳密に仕様を決めていく宇宙プロジェクトにおいて、彼のやったことはルール違反でもあったんだけど、岡田さんがおっしゃる通り、自ら考えて動くことはとても重要です。昔、私が小学生だったときの教科書に『星野君の二塁打』(吉田甲子太郎)というお話があったんですけど、ご存知ですか?

岡田:いえ、初めて聞きました。

的川:野球の試合で、1アウト、一塁二塁、1点差で負けているときに、星野君がバッターボックスに立った。そこで、監督はバントのサインを出すんですが、星野君はサインを無視して打つんです。結果的にそれが二塁打になって、逆転に成功する。星野君は大歓声に迎えられるんだけど、監督はサインを無視されたので良く思わなかった、というあらすじです。そして私の学校の授業では、先生がクラスの生徒に「さて、星野君の行動をどう思いますか?」と問題提起したのです。ぼくなんかは「そりゃあ、勝つほうが嬉しいよな」って思ったんだけど、「ルールは守るべきだ」っていう人もいて、クラス全体の意見は大体半々になったんですよね。

岡田:面白いですね。サッカーでも2人で守る局面では、「1人は必ずボールを取りに行って、もう1人はカバーリングするために後ろにいろ」と指示するのがセオリーなんですけど、2人でボールを取りにいけば奪えるチャンスだったのに、「監督の指示だから」と、失敗を恐れてチャレンジしない選手がいるんです。でも、そこで自分自身で判断してリスクを冒したチャレンジができないと本物のプロじゃない、とぼくは思っていて。そういうチャレンジが日本の社会は少ないんですよね。自分で判断して、もしボールをカットできたら、それは最高の喜びだぞって伝えたくて、このチャレンジのことを「エンジョイ」って呼んでいます。まさに的川さんの話と同じだから、今度からサッカーのミーティングでも『星野君の二塁打』を使わせてもらおうかな(笑)。

「エンジョイ」を図解で説明する岡田氏
日本を代表してサッカー・宇宙開発を導いた両氏が語る、理想のリーダー像とは?
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