ライバルチームの素顔

【vol.1】ライバルでもあり、共に月を目指すパートナー。中間賞総なめの強豪「Astrobotic」

2016.04.20

世界10か国以上から16の民間チームが参戦する人類初の月面探査レース、「Google Lunar XPRIZE」。HAKUTOだけでなく世界中の対戦チームたちも、月への熱い思いを持ち、レースの先を見据えているヴィジョンを本気で実現するためのエネルギーに満ち溢れている。

 

1969年にニール・アームストロングが月の大地を踏みしめてから47年。今、人々はなぜ再び月を目指すのか。大学で機械工学を専攻する傍らHAKUTOで活動を行う村井太一が、HAKUTOのライバルであり、共に月の開拓を目指す同志でもあるGoogle Lunar XPRIZE参加チームのメンバーへインタビューを実施。月面探査で世界を変えようとしている人々の素顔に迫った。

第1回の今回は、レース屈指の強豪チーム「Astrobotic」のチームリーダー、ジョン・ソーントン氏に取材を行った。HAKUTOはAstroboticのランダー(着陸船)に「相乗り」する月面輸送契約を結んでおり、共に月を目指すパートナーでもある。

米国ペンシルベニア州南西部に位置する都市、ピッツバーグがAstroboticの本拠地だ。彼らはカーネギーメロン大学のプロジェクトからスピンアウトした組織で、ジョン氏もまた、カーネギーメロンでプロジェクトに携わる学生の一人であった。

Astroboticは2015年1月に発表されたGoogle Lunar XPRIZEの中間賞において唯一、ランディング(着陸)、モビリティ(走行)、イメージング(撮影)の三部門すべてを獲得している。彼らは一体、どんな思いで月を目指すのか。ジョン氏への独占インタビューでお話を伺った。

月を世界中の誰もが行ける「第8の大陸」にするために

− AstroboticはなぜGoogle Lunar XPRIZEに参加したのでしょうか?

ジョン氏:私たちが毎晩見上げる夜空の星。その中で最も地球から近い場所が月です。だからこそ、月は人類が地球を飛び出して最初に向かうべき目標地点だと考えています。私たちが企業として目指すのは、月を誰もが行ける場所にすること。月を「第8の大陸」にしたいと思っていて、そのための第一歩としてGoogle Lunar XPRIZEに参加しました。

− 月を誰もが行けるようにするというのは、大きなヴィジョンですね!

ジョン氏:月を世界中の誰もが行ける場所にするということは、宇宙機関だけでなく、中小企業や個人が月に行けるということ。その中で私たちは今、「MoonMail」という、個人が思い出の品や小さな物を月面に送り届けることができるサービスを準備しているんです。

今では営業メンバーの尽力もあって大きな関心を集めることができていて、とても嬉しく思っています。

− MoonMailを予約している人たちからは、どのようなものを月に送りたいという声をいただいているんですか?

ジョン氏:様々なモノがありますが、ウェディングドレスの切れ端からペットの毛まで、その人の人生にとって何か大切な意味を持つモノを送りたいという声は多いですね。モノにまつわるストーリーが、月に送られる品々をさらに特別なものにしているんです。このサービスは今までになかった方法で人々と月を結ぶものだと思いますね。

− Astroboticでは何名のメンバーでプロジェクトを進めているのですか?

ジョン氏:社内にフルタイムとパートタイムも合わせると20人のメンバーがいて、さらに授業時間にもよりますがカーネギーメロン大学から40人が関わってくれています。また、NASAが提供している、民間による月面着陸技術の開発のための「Lunar CATALYST」プログラムを通じて、40人から50人の技術者と共に非常に大きなグループでランダーの開発を行っています。

− 他チームに対するAstroboticの優位性は何だとお考えですか?

ジョン氏:Astroboticはカーネギーメロン大学における世界最高峰のロボティクス技術者集団からスピンアウトした組織です。そのため、カーネギーメロンの才能ある技術者たちを獲得できるということは大きな優位点だと思いますね。それは私たちがピッツバーグに拠点を置く大きな理由の一つでもあります。2つ目は、「Lunar CATALYST」プログラムにおけるランダー開発を通じて、NASAとのパートナーシップを締結しているということ。締結しているのは、Google Lunar XPRIZEに参加するチームでは私たち含め2チームのみです。数十年のランダー開発の経験を持ち、非常に多くの打ち上げ実績を持つNASAとの協力は素晴らしいことですし、チームの特筆すべき点だと思いますね。そして3つ目は、他のGoogle Lunar XPRIZEチームと協力することに対してオープンであるということ。HAKUTOとのパートナーシップや、最近ではチリのAngelicvMともパートナーになったのでとても興奮しています。だって、私たち3チームが揃って月面でF1みたいにレースをするのは、最高に痺れることですよね。

いかに創意工夫してローバーを操縦するかが勝利を左右する

− Astroboticのランダー「Griffin」とローバー「Andy」の設計コンセプトを教えてください。

ジョン氏:Griffinについては「推進システムを持つ」というのが主要な特徴ですね。私たちは他社のロケットを使って打ち上げを行いますが、ロケットがランダーを地球から宇宙に向けて押し出したその先はランダーが進んでいきます。ランダーの最初の役割は、月および月軌道までの巡航です。月に着陸した後は、ランダーはコミュニケーションハブ兼電源ハブ、すなわち月面でのインフラとしての役割を持つんです。

− 月面着陸後のGriffinはどれくらいの期間稼働し続けるのですか?

ジョン氏:Griffinは太陽光がある限り稼働します。ランダーは地球時間で2日目または3日目に着陸し、約2週間太陽光を受けて稼働します。一度月面で日が落ちると、温度は液体窒素と同程度までに低下するんです。私たちはこうした月の過酷な環境に耐えられるように設計を行い、厳しい環境試験を行っています。また、これはGoogle Lunar XPRIZEのミッションには含まれてはいませんが、月の裏側でランダーを再起動することにも挑戦したいと思っています。楽しみにしていてください。

− ローバーのAndyについてはどのような特徴があるのでしょうか?

ジョン氏:Andyは四輪の車両として設計され、HDビデオを撮影するためのカメラが上部に搭載されているので、着陸予定地のラカス・モーティスの淵まで走行し、全体を見ようと思っています。また、太陽光発電とバッテリーで電力を供給でき、地球から遠隔操作することができますし、自己防衛機能を搭載し、月面でトラブルに陥らないように設計されているのも特徴ですね。

− では、HAKUTOのローバーとAndyを比較して、どう思いますか? AndyはHAKUTOのローバーに勝てそうですか?

ジョン氏:最後に確認したときは、HAKUTOのローバーのほうが私たちのものより速かったですね。だから、とても興味深いレースになると思います。月面レースにおける大きな技術的挑戦の一つは、非常に少ない情報だけを頼りにローバーを操縦しなければならないこと。月と地球の間には通信の遅延が生じますし、通信の帯域も非常に狭い。一つひとつのコマンドをローバーに送る決断をするのは困難でチャレンジングなことなんです。勝利を手にするためには、少ないリソースの中でいかに創意工夫してローバーを操縦するかにかかっていると言えますね。

有人宇宙開発の一つのあり方「Moon Village」は人類にとっての大きな一歩

− 開発の近況アップデートがあれば教えてください。

ジョン氏:実はとてもビッグなニュースがあるんです。近いうちにわかると思うので、ぜひ注目していてくださいね。最近の最も大きなニュースとしては、先ほどもお話したチリのAngelicvMとの打ち上げパートナー契約締結ですね。次に、ランダーに新たなセンサーを実装したこと。ヘリコプターでランダーを釣り上げる実験を行って、データが揃うのを待っているところです。とにかく、来たるビッグニュースに期待していてください!

− ビッグニュース、楽しみにしています。近頃のチームメンバーの中でのホットなトピックは何ですか? 開発のこと、それ以外のこと、何でもかまいません。

ジョン氏:そうですね、私たちにとってのホットなトピックといえばいつも月に関わる話題ですね。その中でも一番興奮しているのは、ESA(欧州宇宙機関)のヤン・ウォーナー博士が提唱する、月面に「Moon Village」を建てるという素晴らしいヴィジョンですね。私たちは全力でこのヴィジョンを支持したいと思っていて、これが人類にとっての大きな一歩になると信じています。現在、ISS(国際宇宙ステーション)の先には何が予定されているのか、という問いがありますが、彼のヴィジョンはまさにISSの後の有人宇宙開発の一つのあり方だと思っています。私たちのような企業やHAKUTO、ほかのGoogle Lunar XPRIZEチームにとっても非常に大きな機会ですし、だからこそ、私たちは全員でこのヴィジョンを支持する必要があります。もし私たちが月面に人類を派遣できれば、遠く離れた惑星でどのように生活すべきなのかという知見が得られるし、そこで得た知識・技術を使って将来火星に行く可能性も秘めている。それはもうエキサイティングですよね。

− ということは、将来Google Lunar XPRIZEのチーム同士が月面で協力し合う日が来るんですね。

ジョン氏:最高にクールなことですよね! 私たちは探査用のローバーを自分たちのためだけに開発するのではなく、他チームのために供給物資を用意したり、通信インフラを作ったりする必要がある。月面では様々なことが起こるでしょうから、もしそうなるのであればサポートは惜しまないつもりですね。

− その時には私も技術者として参加したいですね。

ジョン氏:最高ですね!

全チームの中から1チームだけ対戦相手を選ぶのなら、HAKUTOは最高の競争相手

− HAKUTOについてはどのように思っていますか?

ジョン氏:HAKUTOはとても素晴らしいチームですよね。ロボティクスを深く理解していますし、超小型ローバーの開発にそれが顕著に表れていると思います。小型化の技術というのは、HAKUTOの個性とも言えるのではないでしょうか。月面のような厳しい環境で動くローバーを開発することは容易ではないけれど、HAKUTOは、統制のとれたチームで非常に素晴らしい仕事をし、未来の小型ローバーを開発しています。私はいつか、HAKUTOが様々な機器を積んだ沢山の小型ローバーを月面で稼働させ、それぞれのローバーが情報を集めて問題解決を行っているという、エキサイティングな日がやってくると考えています。それはきっと、そう遠くない未来の話でしょうね。

− 先日まさに、HAKUTOの次のヴィジョンとして、小型ローバーを多数自立制御し稼働させる「群ロボット」の基礎研究の開始がispaceによってアナウンスされました。

ジョン氏:最高にクールなことですよね。Moon Village構想でも、潜在的な資源の探査から単なる巡回に至るまで、様々な仕事をこなすためには複数のローバーで構成されるチームが必要になるでしょうから。小さなローバーの集団を持つことは多くの可能性があると思いますし、HAKUTOやispaceはそれをリードしていくでしょうね。

− パートナーであり、友であり、ライバルでもあるHAKUTOをどのようにとらえていますか?

ジョン氏:みんな、最高の人たちです。私たちはお互い何年も知っているし、いつも素晴らしい時間を共にしてきました。共同で行ったフィールド試験もその一つですね。AstroboticとHAKUTOの協力関係は、お互いにとって素晴らしく楽しいものになっていると思いますし、月面で競い合うことを楽しみにしています。もし、全チームの中から1チームだけ対戦したい相手を選べと言われたら、HAKUTOは最高の競争相手ですね。そして、優勝の栄誉は最高のチームと最速のローバーに贈られるんです。

− これからもHAKUTOとAstroboticの関係が続いていくことを楽しみにしています。

ジョン氏:そうですね。Google Lunar XPRIZEのレースにとどまらない、長いパートナーシップになると思っています。将来的に、私たちがランダーで月までの輸送を担い、HAKUTOが超小型ローバーたちを送り込み、そのローバーたちがミッションを達成する。月面にはたくさんのHAKUTOのローバーが稼働することになるでしょうね。

− 最後に、日本の皆さんへのメッセージと、TEAM HAKUTOへのメッセージをお願いします!

ジョン氏:まず、Google Lunar XPRIZEを応援してくれる日本の皆さんへ。Google Lunar XPRIZEは年々どんどん盛り上がっていっています。世界各国から月面に集まったチームが、まるでオリンピックのように最高にクールなレースを行うのです。そして、これは新しい大会の始まりに過ぎません。私たちはGoogle Lunar XPRIZEに関われることにとても興奮しています。日本の皆さん、Google Lunar XPRIZEをサポートしてください。月から最高のショーをお届けします。

次にTEAM HAKUTOへ。私たちはいつもHAKUTOとパートナーであることに痺れる興奮を覚えていて、皆さんと一緒に働くことをずっと楽しんでいます。この数年間で最高に素晴らしいHAKUTOメンバーに出会い、いつも皆さんの仕事に感銘を受けています。そして月面で共にローバーを走らせることを光栄に思うし、最高にエキサイトしています。

− ありがとうございました!

HAKUTO袴田代表と、Astroboticジョン代表

いかがだっただろうか。私はこのインタビューを通じて、Google Lunar XPRIZEが単なるレースではないということを感じた。ほかのチームを蹴散らすのではなく、共に月を目指す良きライバルとして、時にはチーム間での協力も惜しまない。それは、全員が月への熱い思いを共有しているからにほかならない。それを読者の皆様にも感じ取っていただけたら幸いだ。

PROFILE

Team HAKUTO 村井太一

東京理科大学 4年
大学で機械工学を専攻する傍ら、2015年春よりHAKUTOプロボノメンバーとして活動開始。2016年春よりispaceのインターンとしてもHAKUTOの活動をサポート中。

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