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打ち上げ地のインド現地視察から見えた宇宙産業の転換期

2017.11.08

HAKUTOは、年末に予定されていた打ち上げ日にこだわらず、期限内にミッション達成を目指すことを発表したが、残された時間は決して多くはない。そんな中、HAKUTOメンバーが実際の打ち上げが行われるインドを視察に訪れた。新たに建設された管制室と、打ち上げ場所付近の様子をHAKUTOの森智也氏にレポートしてもらった。

レースの緊張感が高まる現地インドを視察

今年8月にXPRIZE財団がレース期限を2018年3月31日に改訂して以来、HAKUTOとTeamIndusは打ち上げ日の変更を検討してきた。打ち上げ日は引き続き協議中だが、現在の予定にはこだわらず、期限内にミッション達成を目指すことになった。これにより両チームはGoogle Lunar XPRIZEのミッション達成をより確実にするために、さらなる調整を加えることが可能になった。

それでも、打ち上げまでには多くの作業があり、時間的余裕はあまりない。そんな中、私(HAKUTO:森智也)は4名のHAKUTOメンバーとともに、打ち上げ場所となる現地インドを視察した。打ち上げ本番で実際に使用される管制室や、打ち上げ場所であるサティシュ・ダワン宇宙センターの様子をレポートする。

10月初旬に、私はHAKUTO広報担当の秋元とともにインドに降り立っていた。日本でもお腹を壊しやすい私が、どうなってしまうのかと不安を感じている間に飛行機はバンガロールのケンペゴウダ国際空港に着陸した。

湿度も気温も、思っていたほど高くはない。それもそのはず、TeamIndusが拠点を置くインドの都市バンガロールは、標高920mほどの地点に位置している。現地の人も基本は半袖だが、たまに肌寒いとカーディガンを羽織る。そんな感じだ。

本番で使用される管制室で行われた、SORATOとECAのデモンストレーションテスト

バンガロールにあるTeamIndusのオフィス

翌朝、TeamIndusのオフィスへと向かった。TeamIndusでは、数日前からXPRIZE財団関係者およびGoogle Lunar XPRIZE審査員を招き、審査会を行っていた。そこではチームの開発状況、詳細なミッション遂行計画、ランダーとローバーの運用方法などを、数日に渡って入念に確認する。TeamIndusのランダーはHAKUTOの月面探査ローバー「SORATO」も月まで運ぶため、2チーム間の連携方法も重要な確認事項だ。つまり、この審査会はHAKUTOにとっても打ち上げまでに残されたマイルストーンの一つである。

HAKUTOは、この審査会の最終日に行われるメディアイベントの「デモンストレーションテスト」にて、SORATOを走らせるために参加した。場所は、今回TeamIndusが施設内に新たに建設した管制室「TeamIndus Mission Operation Center(TIMOC)」で、おそらく本番時には、ここからの映像が日本でも同時中継されるのだろう。そう思うと、途端に気が引き締まった。

管制室TIMOCの様子。前方に2つの大型スクリーン、その両側にそれぞれ6台のモニターが設置されている。後方には約80人を収容できる観覧席があり、メディアのための取材スペースも確保されている。

TIMOCに隣接する倉庫には、月面環境に似せた20m四方の大型砂場が用意され、デモンストレーションテストではこの上でSORATOとTeamIndusのローバー「ECA(イカ)」が試験走行を行った。

TIMOCに隣接する倉庫内の大型砂場でデモンストレーションテストが行われた。砂粒は非常に細かく見た目は小麦粉のようで、可能な限り月面環境に近づけられている

それぞれのローバーの操縦は隣にあるTIMOCの管制室から行われ、実際のミッションと同じく操縦者たちはローバーを直接見ず、カメラからの映像を頼りに操縦する。SORATOから送られてくる映像にECAが映ると、模擬試験とはいえ、少し緊張した自分がいた。はたして、月面でお互いの姿を見ることはあるのだろうか。

2台のローバーは多数のメディアの前で無事動作をこなし、テストは終了した。もちろん、本番とは操縦画面も異なるし、ローバーが動くのも隣接した部屋ではなく、38万km離れた未開の地だ。それに、ミッションが始まれば、この施設内は想像を絶する緊張感に包まれるだろう。それでも、映画で見たような管制室に多数のメディアが各国から押し寄せる光景は、終盤に差し掛かったレースの世界的な盛り上がり具合を再認識させてくれた。

[左]テストでは、HAKUTOが操縦イベント体験で使用しているタブレット画面をTIMOCの中央右スクリーンに投影し、カメラの映像を右側のモニターで確認した
[右]TIMOCにつめかけた各国のメディアの様子

2台のローバーを搭載したPSLVロケットが打ち上げられる、サティシュ・ダワン宇宙センター

イベントが無事終了し一息ついた後、バンガロールからおよそ300km離れたシュリーハリコータへと向かった。今回の最後の目的地であり、TeamIndusのランダーとローバー、そしてSORATOを搭載するロケット「PSLV(※)」が打ち上がる、サティシュ・ダワン宇宙センターがある地域だ。私を含めた5人のHAKUTOメンバーは、バンガロールから小型のプロペラ機で約1時間かけて最寄りのチェンナイ空港に到着。さらに、そこから車で北に約3時間移動した。
※ TeamIndusとHAKUTOの探査機が載る予定のロケット

[左]道中の様子 [右]筆者が立ち寄ったココナッツスタンド

道路は予想以上に舗装が整っており、バンガロール同様、交通量も多くクラクションが鳴り響いていた。やがて郊外へ出ると、窓の外の景色は緑色に染まり始める。車に揺られることおよそ2時間半。私たちは最寄りの都市サルルーペータに到着した。途端に、雰囲気がガラッと変わった。道路はほとんど整備されておらず、野良犬はもちろん、牛やヤギが道を歩いている。その横で人が寝そべっていたり、食事をしたりしている。日本ではまず見られない光景だ。

サルルーペータとシュリーハリコータをつなぐ道路。たまに車とすれ違うが、それ以外は静けさに包まれていた

サルルーペータの中心を通るシュリーハリコータ通りを道なりに進むと、両側を湖に囲まれた8kmほどのまっすぐと伸びる道路にたどり着く。やがて目の前に島が現れ、ようやくサティシュ・ダワン宇宙センターに到着した。島の入り口にはラウンドアバウト(環状交差点)があり、その中央にはPSLVを含むロケットのスケール模型がそびえ立つ。付近では武装した軍人が出入りする車を監視していた。穏やかな島の外観とは裏腹に、緊張感が漂う場所だ。奥はゲートで閉ざされており、一般人は事前に許可を申請しない限り入ることはできず、周囲の撮影はもちろん禁止だ。

サティシュ・ダワン宇宙センターにあるロケットのスケール模型

その後、打ち上げをパブリックビューイングできる開けた場所を訪れた。打ち上げ本番の時は、HAKUTOのメンバーを含め、TeamIndusのメンバー、そして各国のメディアはこの場所から、ロケットが天を突き抜ける様を見ることになる。打ち上げ場所からの距離はおおよそ5kmほどだ。天候次第では煙しか見えないかもしれない。それでも、ここがSORATOをそばに感じることができる最後の場所なのだ。

パブリックビューイングスペースとなる場所を視察するHAKUTOメンバー

現地視察を通して、レースの盛り上がりと同時に宇宙開発への新たな幕開けを感じる

2007年に始まったレースは10年の時を経て、いよいよ終盤に差し掛かっている。当初参加していた32チームのうち、5チームがファイナリストとして選ばれた。その中に日本発のチームHAKUTOがいる。民間のチームが月を目指す──前代未聞のこのレースは今、宇宙開発の歴史に新たなる1ページを刻もうとしている。
今回のインド訪問は、その状況に対する誇りと緊張、そしてHAKUTOが築いてきた道のりが持つ意義を再確認することができた。私たちHAKUTOは、みんなの想いとともに、最後の1歩をもう踏み出している。打ち上げ日はミッション達成に向けて調整中だが、レースの期限までの時間が少ないのは変わらない。何が何でも、あとはやり切るのみだ。

PROFILE

森智也 / TOMOYA MORI

1993年NY州生まれ。日本とスイスで小中高時代を過ごし、米ブラウン大学物理学部天文学科を2016年に卒業。現在は、HAKUTOを運営する株式会社ispaceにて月面開発事業を担当。フリーランスライターとして、日米のWEBマガジンで宇宙業界についての執筆も手がける。

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